がんと向き合い生きていく

薬もいくつかつくられたが…キノコはがんに効くのだろうか

カワラタケ
カワラタケ

 雨の日が続いたある朝、狭い庭の畑にキノコの塊を3カ所見つけました。前日まではまったく見ませんでしたから、夜中に急に出てきたのでしょう。結構、たくさんあるのです。畑の中というよりも、歩く道、砂利の中に生えています。

 家には2冊、キノコの本があります。妻はその写真を指して「食べられる、ニワシメジだ」と言いますが、私は首を縦には振りません。「危ないから食べるのはやめよう」と答えました。

 ちょうど、その日はテレビでも「食べられるキノコ、食べられないキノコ」の話題を取り上げていました。しかし、素人にはなかなか区別ができません。

 結局、近くの野草園に行ってスタッフに尋ねてみると、食べられるキノコでした。さっそく採取して鍋にしてみたら、とてもおいしくいただけました。一緒に煮たネギ、豆腐も美味でした。

 昔、わが家の縁側には乾いた大きなサルノコシカケが1個置いてありました。あれはどうしたのか、食べた記憶はありません。

 ひと頃、サルノコシカケはがんに効くとか、キノコを食べる家庭ではがんが少ないとかいわれたことがあったように思います。キノコは免疫力を活性化させるのではないかというのです。キノコに含まれる多糖類のβ-グルカンは免疫力を上げる、アレルギーを予防する、コレステロールを下げる……などと聞いた記憶があります。

■「免疫賦活剤」という言葉もあまり聞かなくなった

 以前、キノコからがんの薬が製造されました。カワラタケからつくられたクレスチンは、胃がんや大腸がんの化学療法との併用により生存期間の延長が、小細胞肺がんに対しては化学療法との併用で奏効期間の延長が得られたとして市販されてきました。しかし、2017年に製造販売中止となっています。

 また、シイタケからつくられたレンチナンという薬剤(静脈注射)は、テガフールという抗がん剤(経口投与)との併用で生存期間の延長効果があるとされてきましたが18年に販売中止となっています。

 これらの薬は、がん化学療法の進歩によって最近は使われなくなったことが販売中止の大きな原因のようです。

 さらに、スエヒロタケからシゾフィランという薬(筋肉注射)が開発され、子宮頚がんに対して放射線治療との併用で使われてきたようです。ただ、私は使ったことがありませんでした。

 こうした薬は「免疫賦活剤」ともいわれましたが、最近ではあまり聞かない言葉になりました。先にお話ししたクレスチンやレンチナンは、がんに効くと国が認めた薬です。当時、がんに効いたというデータもありました。しかし、がんに効いてほとんど副作用もない今の薬とは比較にならないのです。

 他にも、民間療法でヒメマツタケというものを聞いたことがあります。乾燥したヒメマツタケを煎じて飲ませたら、がんに効果があったというのです。

 また、古梅霊芝というサルノコシカケ科に属するマンネンタケ(霊芝)も、信じる仲間内では重宝されているといいます。古い梅の木に生えるキノコで、数万本の梅の古木に1つ見つかればいい方だそうです。

 一時期、紅茶キノコも話題になりました。大きなブームのようになりましたが、急激に消えていったような印象があります。科学的に証明された効果、エビデンスがないのだと思います。がんの「補完医療」という名称が使われていたこともあったようですが、最近はこの言葉もあまり聞かれなくなりました。

 いずれにせよ、食べられるキノコはカロリーは少ないものの、いろいろな栄養素を含み、天の恵みの食品といえるのではないでしょうか。香りの良いものもあり、がんとは関係なく楽しめたらいいと思います。ただ、毒キノコもありますから要注意です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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