睡眠をなるべく妨げないお酒の飲み方とは? 睡眠外来の作業療法士に聞いた

眠れないから飲んでしまう…
眠れないから飲んでしまう…

 なかなか眠れないから、寝る前にお酒を飲んでいる──。そんな人は少なくないだろう。アルコールが睡眠の質を低下させることは知られている。できるなら、飲まないほうが熟睡できる。しかし、それでもやっぱりお酒を飲みたい、あるいは飲まなければならない場合、どうすれば睡眠への悪影響を軽減できるのか。クリニックの睡眠外来で睡眠の質を改善する指導を行っている作業療法士の菅原洋平氏に聞いた。

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 適量の飲酒は寝つきを良くするのはたしかといえる。アルコールは脳内で興奮性の神経伝達物質の働きを抑え、抑制性の神経伝達物質GABA(ギャバ)のGABAA受容体を活性化して、鎮静や催眠を招くと考えられている。しかし、体内でのアルコールの代謝と排泄は迅速に行われるため、入眠作用は数時間で消失する。

 さらに、その後はアルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドの覚醒作用によって中途覚醒が増え、睡眠が浅くなる。「アルコールは『覚醒』と『睡眠』に対して交互に作用する物質なのです。お酒を飲み始めると脳が覚醒して気分が高揚し、冗舌になり、しばらくすると眠くなってくる。寝ついたと思ったら途中で目覚めてしまい、その後は妙に気持ちが高ぶって眠れない……そんなパターンが多いのはそのためです。こうしたアルコールの作用が睡眠の質を低下させるのです」

 また、アルコールには体内の水分の排出を促す利尿作用があり、夜間多尿を招いてこれも中途覚醒につながる。さらに、そうした作用によって「脱水」が生じ、お酒を飲めば飲むほど汗や尿によって体の中の水分が失われていく。

 この脱水状態も睡眠の質を低下させる大きな要因になるという。

「われわれは睡眠中に500~600ミリリットルの水分を失っています。そのうえ、アルコールの代謝にはたくさんの水分を必要とするので、お酒を飲んでから寝ると、就寝中の脱水を起こしやすくなるのです。体内の水分が減ると、血流が悪化して細胞へ供給される酸素などが少なくなり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて睡眠に悪影響が出ます。また、体内の水分が減った分、覚醒作用があるアセトアルデヒドの血中濃度が上がります。酔ったまま眠りについて脱水状態で目覚めると、頭痛や吐き気といった二日酔いの症状が出るのはそのためです」

お酒を飲む前には白湯を
お酒を飲む前には白湯を
飲む前の白湯が効果的

 アルコール(アセトアルデヒド)が睡眠に及ぼす悪影響を減らすには、脱水を防いで体内の水分量を増やすことがポイントになる。

「お酒を飲む前に水分を補給するように心がけましょう。あらかじめ体内の水分量を増やしておけば、その後の飲酒の影響で水分が排出されても、脱水を防ぐことができますし、二日酔いにもなりにくくなります。喉が渇いた状態でビールなどのお酒を飲む方がおいしいという気持ちはわかりますが、その夜の睡眠時に中途覚醒を軽減してなるべく質を低下させないようにするには、飲み始める前の水分補給が大切なのです」

 体格=筋肉量によって変わってくるが、補給する水分量はコップ1杯分程度の180ミリリットルが目安になる。飲酒中も30分~1時間ごとに同じだけ水分を補給するとより効果的だという。

「さらに効果が期待できるのが『白湯』を飲むことです。水に比べて体温に近い温度なので、自律神経に負担をかけずに体の水分量を増やせます。仕事でアルコールの試飲を数多くこなす飲料メーカーの社員も、試飲する前に必ず白湯を飲むといいます。体への負担を少なくしながらアルコールの影響を減らすうえ、嗅覚がしっかりしてアルコール飲料の味もよりはっきりわかるようになるそうです」

 ただし、これらのアルコール対策は、もともと睡眠のリズムが整っていることが大前提になる。普段から睡眠に問題を抱えていて、寝るためにお酒を飲む「寝酒」が習慣になっている人は、まずアルコールと睡眠はまったくの別物と考えることが重要だという。

「寝つきを良くするためにアルコールの催眠作用を利用している場合、次第に耐性がついてきて、アルコールの量が増えていく傾向があります。そのため、アルコールによる体へのダメージもどんどん強くなってしまうのです。この状態を防ぐためには、睡眠とアルコールを切り離し、日頃から睡眠リズムを整える方法を実践します。たとえば、目覚めたら窓から1メートル以内に入って光を浴びると、その16時間後に自然と眠くなります。また、夕方に体を動かして体温を上げると、夜に深く眠れるようになります」

 アルコールと睡眠の関係をしっかり理解したうえで、お酒を楽しみたい。

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