われわれが普段当たり前に行っている“食べる”という行動は、先行期(認知期)、準備期、口腔期、咽頭期、食道期に分けられ、これを「摂食嚥下5期」と呼びます。
先行期(認知期)は、食べ物を認識して口に運ぶ時期のことです。われわれは食べ物を見ると、「これはこんな味がして、こんな感じの食感で、こんなふうに食べればいいんだ」ということを、これまでの経験を基に無意識的に判断しています。当たり前のように聞こえますが、じつは高度な作業で、認知症の高齢者が食事を食べなくなる原因のひとつがここにあります。
認知症の高齢者は、食べ物に対する記憶もなくなってしまっているケースがあります。すると、食べ物を見ても「見たことのない得体の知れないもの」と感じ、食べようとしなくなってしまうのです。健康な人でも、遠い異国の地で見たことも聞いたこともない食べ物に出合ったときは食べるかどうかをちゅうちょすることが多いでしょう。認知症の高齢者は毎食それが起きているのです。
準備期は、食べ物を口の中に入れて「もぐもぐ(咀嚼)」し、舌の上に食塊という食べ物のお団子を作る時期のことです。ここはみなさんも実感できるところなので、ぜひ食事のときに意識してみてください。咀嚼していると徐々に舌の上に食べ物が集まってくるのがわかると思います。
口腔期は、舌の上に作った食塊を喉の方に送り込む時期です。ここで重要となるのが舌の力です。口腔期では舌を口の上側、つまり口蓋に押しつけることで食塊を喉に向けて移動させます。そのため、高齢で舌の筋力が衰えているような場合には、ここの部分がうまくできずにのみ込めなくなってしまいます。
咽頭期は、舌の力で咽頭まで送り込まれてきた食塊を食道に運ぶ時期です。いわゆる「ごっくん」することをいうのですが、1秒にも満たない極めて短い時間で行われるので、自分の意識で調節することはできません。
ひとつだけ意識できることは、「ごっくん」するときに喉仏に触れると動くのがわかると思います。これは、喉仏が動くことで喉頭蓋という部分が気管に蓋をしていることを意味しています。これによって食べ物が誤って気管に入らないようにしてくれています。
食道期は、食べ物を食道から胃に送り込む時期のことです。ここも自分では制御できない部分です。
前回、“食べる”ためには、「食欲」「体力」「嚥下」の3つの力が必要になるとお話ししましたが、先行期(認知期)と準備期は「食欲」が、準備期と口腔期には「体力」が、そして口腔期、咽頭期、食道期には「嚥下」が主に求められます。そして、それぞれに対してじつにさまざまなクスリが悪影響を及ぼすのです。次回、詳しくお話しします。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方