Dr.中川 がんサバイバーの知恵

天皇陛下の検査報道で注目 前立腺がん「PSA」と「MRI」の位置づけ

検査を終え、東大病院を出られる天皇陛下(代表撮影)
検査を終え、東大病院を出られる天皇陛下(代表撮影)

 天皇陛下が前立腺を調べるためMRI検査を受けたところ、前立腺肥大でした。宮内庁は「特に懸念される所見はない」としていますが、月内に組織検査を受けるそうです。半年に1回ほど血液検査でPSAをチェック。その数値がやや高く、MRI検査に進んだということです。

 さて、PSA検査やMRI検査については、どう考えればいいのでしょうか。その先にある重要な生検も含めて、一般論として紹介します。

 PSAは、前立腺の細胞が分泌するタンパク質で、多くは精液に、血液にも微量に含まれているため、血液検査で簡単に調べられます。健康診断や人間ドック、かかりつけ医の検査でも行われていて、中高年男性にはおなじみでしょう。

 その基準値は4ナノグラム/ミリリットルで、4以上で「PSA値が高い」と判断します。数値が高くなるほど、前立腺がんの発見率が上昇し、10で3割ほどが、20~30で5割前後が前立腺がんといわれます。

 つまり、これくらいの高値でも、かなりの確率で前立腺がん以外の病気が含まれているわけで、PSAは前立腺がんの診断になりません。がん以外は、前立腺肥大や前立腺炎などです。

 前立腺がんを診断するには、針生検が必要。超音波で画像を見ながら、前立腺に針を刺して検体を採取。それを病理学的に調べて、がんかどうか確定するのです。

 そのためには、前立腺のどこが疑わしいか調べることが重要。最近注目されているのがMRIです。これにより、前立腺にがんがあるかどうかはもちろん、その位置や大きさのほか、悪性度もある程度予測できるようになりました。

 その画像をもとに前立腺がんの可能性を予測する「パイラッズ─スコア」を判定します。1点・がんの可能性が極めて低い、2点・可能性が低い、3点・どちらともいえない、4点・可能性が高い、5点・極めて高い、です。

 一般に3点以上で針生検を勧められることが多くありますが、1点や2点でもゼロリスクではなく、ほかの検査結果や年齢なども合わせて慎重な判断が大切でしょう。

 針生検では、決まった部位十数カ所から組織を採取するのが一般的。MRI検査を加えるようになり、怪しい部分を取り損じることなく、異常な部位を標的として採取できるのが大きなメリットでしょう。そして、採取した組織分析から正確な悪性度を評価することになります。

 前立腺がんと診断されると、治療は早期なら手術か放射線です。東大病院でも、2020年に初めて放射線の治療件数が手術を上回りました。照射は通院で5回のみ。服も着替えずに済み、治療室への入室から退室までわずか7分です。放射線なら、手術の後遺症である尿漏れやEDの心配もありません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事