「冬の脱水」を甘く見てはいけない マスク着用に乾燥が重なって…

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 都内のあるクリニックでは、新型コロナの感染拡大以降、睡眠不調や体調不良を訴える患者によく話を聞いてみると、「脱水」を起こしているケースが増えたという。脱水というと汗をたくさんかく夏は警戒されるが、冬でも注意が必要だ。甘く考えていると命に関わるような深刻な状態を招きかねない。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 コロナ禍では感染予防のためのマスク着用が当たり前になった。マスクをつけていると「喉の渇き」に気付きにくくなる。水分を含んだ自分の呼気がマスクの内側にこもり、その湿った空気を再び吸い込むことで、口や喉の乾燥が抑えられるからだ。

 ただ、体内の水分は排尿や発汗以外にも呼吸や皮膚からの蒸発などによって常に失われている。「不感蒸泄」と呼ばれるもので、健康な成人では1日に約900ミリリットルの水分が失われているという。

「通常の場合、体内の水分が減ると喉の渇きを感じます。水分補給を促すサインです。しかし、日常的に長時間にわたってマスクを着用していると、このサインが出にくくなるうえ、いちいちマスクを外すのが面倒なこともあって、水分補給の回数が減ってしまいます。そのため、気付かないうちに脱水状態になっているケースがあるのです」

 しかも、冬はさらに脱水のリスクが高くなる。

 ただでさえ空気が乾燥しているうえに、暖房器具を長時間つけっ放しにしていることも多いため、体内の水分が蒸発しやすくなるからだ。

■腎臓が大きなダメージを受ける

 たかが脱水と侮ってはいけない。脱水が起こると、喉の渇きのほかに、頭痛、ふらつき、動悸、倦怠感といった症状が現れる。そのまま放置していると、命の危険がある深刻な事態につながりかねない。

「さらに脱水が進むと、血液量が減って毛細血管はもちろん、冠動脈や腎動脈などのやや太めの血管でも血液の循環が悪化します。血圧も低下して、体内の臓器に十分な血液を送り込めなくなるため、さまざまな臓器不全を起こしやすくなってしまうのです。脳や心臓の血流低下も危険ですが、それ以上に注意すべきなのが腎臓へのダメージです。腎臓への血流量が減ると、老廃物がうまく排出できなくなります。これが体に蓄積して腎炎を起こし、糸球体自体が傷ついて腎臓の機能が低下します。これが急性腎障害で、さらに悪化して腎不全につながる危険があります。腎不全になると心不全が生じやすくなり、全体の血液循環が悪くなって、さらに腎臓を含む各臓器の血流が低下します。最終的に多臓器不全に陥って、最悪の場合、命を落とすこともあるのです」

 脱水で血液量が減ると、血液の粘度も上がる。赤血球の柔軟性がなくなり、白血球がくっつきやすくなり、血小板が固まりやすくなっている状態で、血球が柔軟に変形できないため毛細血管での血流が悪くなり、血液が固まって血栓ができやすくなるのだ。生成された血栓が脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の血管に詰まれば心筋梗塞につながり、いずれも命の危険を伴う。

「たとえ健康な人でも脱水には注意が必要ですが、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病から動脈硬化が進み、冠動脈疾患がある人は狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが格段にアップするので、なおさら気を付ける必要があります。また、慢性腎臓病を抱えている人は脱水を起こすとアッという間に腎不全に至るリスクがあるので、こちらも要注意です」

 マスク着用に空気の乾燥も加わる冬の脱水から身を守るためには、予防が何より重要だ。

「たとえ喉の渇きを感じていなくても、2時間ごとにコップ1杯程度、200~300㏄の水分を補給することを意識してください。大量の発汗によって電解質も多く失われる夏に比べ、冬は水やお茶でもいいでしょう。加湿器を利用して室内の乾燥を防ぎ水分の蒸発を抑えるのも効果的です」

 また、就寝中は水分を摂取できないため脱水を起こしやすくなる。寝ているだけで200㏄の水分が失われるうえ、尿として300㏄の水分が膀胱にたまる。ベッドに入る30分くらい前に少なくとも200㏄の水分を補給するように心がけたい。

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