サッカーW杯カタール大会が20日に開幕します。私は暁星小中高時代にサッカー部でしたから、大のサッカーファン。日本戦はもちろん、サッカー強豪国の試合がとても楽しみです。
そんな中、注目しているのがオランダ代表のファンハール監督です。この春テレビ番組で前立腺がんを告白したことが話題になりました。2年前にがんが発覚すると、選手には内緒で昨年から治療をスタート。合宿中は夜中にキャンプを抜け出し、病院の裏口から入って、25回の放射線治療を終えたといいます。
前立腺がんを根治できるのは手術と放射線で、治療成績はどちらも同等ですが、日本では手術偏重の時代が長く続いていました。最近は、放射線の治療実績が増え、東大病院でも2020年に手術を上回りました。
従来、放射線の照射回数は40回前後でした。月曜から金曜までの週5回、2カ月の通院です。それが、1回の線量をアップさせることで回数が25回に減り、ピンポイントに照射できる定位放射線治療の登場で今や5回です。
1回の照射時間は2分ほど。患者さんは服の着替えも必要なく、照射する寝台に寝ているだけ。あらかじめ計画された照射位置の微調整や寝台の調整などの時間を含めて入室から退室までわずか7分です。これなら仕事と治療の両立も難しくはなく、福岡や大阪から来られる方も珍しくありません。
前立腺がんは、細胞を採取して調べる悪性度によって、低リスク、中リスク、高リスクに分かれます。中リスクと高リスクでは、放射線治療の前にホルモン治療をプラス。ホルモン剤は3カ月に1度の注射ですから、これも通院の負担は少ないでしょう。
気になる医療費は、手術が約150万円で、38回照射の放射線が約120万円になります。5回照射だとさらに安く、約63万円です。患者さんの自己負担はそれぞれ1~3割になります。高額療養費制度も使えるので、費用面でも5回照射にメリットがあるでしょう。
さて、前立腺がんは、遺伝の影響があることが分かってきました。米国の研究によると、父親や兄弟など前立腺がんの人が1人でもいる男性は、1人もいない人に比べて前立腺がんになるリスクが2倍、2人いると同5倍になるという報告があります。
このような家系では若くして発症することもあるため、40代から血液検査で前立腺がんの可能性を調べるPSA検査を受けておくことをお勧めします。
米女優のアンジェリーナ・ジョリーは、乳がん予防で両方の乳房を、卵巣がんの予防で卵管と卵巣を切除しました。乳がんや卵巣がんとの関係が指摘されているのがBRCAという遺伝子の変異で、実は前立腺がんとも関係がありそうで、転移がある前立腺がんの6%には、この遺伝子変異があるとされ、予防的前立腺摘出も行われているのです。
家系にこれらのがん患者がいる場合は、男性も遺伝子検査が必要かもしれません。
Dr.中川 がんサバイバーの知恵