ふらつき、めまい、息切れ…60歳以上は脳梗塞につながる心房細動を疑え

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 脳梗塞は、脳の血管が詰まって脳の血液の循環に障害をきたし、さまざまな症状を起こす病気だ。これからの季節、注意したい病気でもある。

 国立循環器病研究センターが、2011年から15年までの5年間に入院治療を受けた脳梗塞患者2965例を季節ごとに分け、年齢や病型、重症度の要因を用いて解析した研究がある。

 それによると、全体では季節差はなかったが、「75歳超」「心原性脳塞栓症」「中等症から重症」に限定して調べると、いずれも冬の割合が目立って高かった。その一因として、心原性脳塞栓症の最大の原因である心房細動(不整脈)の新規発症が冬に多く、心原性脳塞栓症の患者は高齢で症状が重いことを挙げている。

 心原性脳塞栓症は、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシムさんやプロ野球巨人元監督の長嶋茂雄さんを襲った病気だ。国立病院機構九州医療センター脳血管・神経内科臨床研究推進部長の矢坂正弘医師が言う。

「脳梗塞にはたくさんの病型があり、代表的なもののひとつが心原性脳塞栓症です。心臓の心房と呼ばれる部屋全体がけいれんするように小刻みに震え、規則正しい拡張と収縮ができなくなった状態が心房細動で、それが起こると血液がよどんで血栓ができ、その血栓が頭に飛ぶと、心原性脳塞栓症という脳梗塞を起こします」

 心房細動は増えており、その傾向は今後も続くと推測されている。

「心房細動が慢性的に起こっている慢性心房細動は100万人以上いるだろうと推測されています。発作的に起こる発作性心房細動も同じくらいいるとみられ、心房細動全体では200万人くらいと考えられます」(矢坂医師=以下同)

■「ノックアウト脳梗塞」の危険

 心原性脳塞栓症は「症状が重い」と前述した。心房細動によってできる血栓は、そのほかの血管にできる血栓より大きいことが多く、脳の比較的大きな血管に閉塞を起こすこともあり、そうなると脳の広範囲に障害が及ぶからだ。

「脳の一部が死に、脳浮腫や出血性脳梗塞となって脳ヘルニア(脳圧が高くなり、脳組織の一部が脳の中の境界や隙間からはみ出す状態)に至ると、救命は難しい。『ノックアウト脳梗塞』とも呼ばれるほどで、助かっても寝たきりになるなど元の状況には戻れない」

 心原性脳塞栓症は再発率も高い。発症2週間以内で16~20.3%、慢性期で年間12%。発症後10年間で75%という報告もある。

 心房細動があれば速やかに適切な治療を受けることが重要。症状としては、ドキドキする、息切れ、めまい、ふらつき、疲労感などがある。

「しかし、心房細動は症状がないことも多く、定期検診の心電図検査などで初めて見つかる場合も少なくありません」

 心原性脳塞栓症を起こさないためには、60歳以上でぐっと患者数が増えるので、その年齢を越えたら定期検診で心電図検査を受けるべき。

 さらには、自己検脈の習慣を身につける。

「ポイントは、手首の親指の付け根部分に人さし指、中指、薬指の3本の指を当てて、拍動が規則的かどうかを確認する。脈が弱い、不規則、数えられないというときは、心房細動が疑われます」

 病院で心房細動が判明したら、治療は抗血栓薬や抗凝固薬の治療になる。いわゆる「血液サラサラ薬」の服用で、アスピリンやワーファリンなどがある。

「これらの薬で心原性脳塞栓症を起こしにくくなります。ただし注意が必要で、頭蓋内出血や消化管出血といった出血性合併症の危険があります。アメリカのデータでは、院内死亡の一番の原因になっています」

 アジア人は特に頭蓋内出血を起こしやすい民族であることがわかっている。頭蓋内出血は、高血圧、喫煙、飲酒、転倒で起こしやすくなる。つまり心房細動の治療には、血圧管理、禁煙、禁酒・節酒、転倒リスク(筋力やバランスの低下、視力障害、住環境など)の回避も必須となる。

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