悩んでいる過程そのものに、人間は頭を悩ませます。
小さなことで言えば、「ハンバーグ定食」と「オムライス定食」、どちらを食べるかで迷ってしまう。あるいは、ブラックの服とグレーの服、どちらを買おうかと迷ってしまう。
一方で、転職をする際にA社とB社で迷う、引っ越しをする場合にAの部屋とBの部屋で迷うといった比較的大きな決断もあります。環境面や金銭面といった条件が変わらないのであれば、どちらを選ぶかはとても難しい判断になるでしょう。もしも選択が間違っていたら、ハズレを引いたらどうしよう……。そう迷ってしまうため、人は悩み、決断ができなくなってしまうというわけです。
しかし決断というのは、言葉が持つ重い響きとは裏腹に、案外あっさりしたものだったりします。
シカゴ大学の経済学者スティーヴン・レヴィットは、「人生の重要な選択の場面において、自分で決断できない人はどう決断すべきか」を調査するために、“コイン投げ”ができるウェブサイトを開設しました(2016年)。
ユーザーは決めかねている内容を書き込み、その後、画面上でコインを投げる。表が出たら「実行」、裏が出たら「実行しない」というメッセージが出る、という具合です。
レヴィットは1年かけて4000人の悩みを収集し、その後、サイトを利用したユーザーに対して「コイン投げによって人生がどう変化したか」を追跡調査しました。
ちなみに、書き込まれた悩みとしてもっとも多かった内容は「今の仕事をやめるべきかどうか」、次に「離婚すべきかどうか」といったハードなもの。人生の大きな決断だけに、コインに委ねていいのか疑問がわくところですが、それだけ自分一人では決断できない──人間は悩める生き物なのでしょう。
その結果、ユーザーの63%がコイン投げの結果に従っていたことが判明したといい、驚くべきは、コインによる判断が表であろうが裏であろうが、悩みの解決に向かって何かしら行動をした人のほうが、半年後の幸福度が高いこともわかった点です。
人間は、行動と気持ちが矛盾する「認知的不協和」が生じると、なんとか一貫性を保とうとします。自分での決断に迷いが生じるのは、選択した判断が納得いかないものになることが怖いからです。
だったら、ときには判断をコインの表裏に委ね、「コインが決めたことだから」と割り切ってしまったほうが、よほど気持ちが軽くなる。ここで大事な点は、一度どうするか決めてしまえば、人はその決断をできるだけ後悔しないように行動していくため、幸福度が向上しやすくなるということです。
人生の決断をコインに委ねるのは気が引けるかもしれませんが、日常の小さな迷いなどに関しては、ときにはコインの裏表で決めてしまった方が◎。「どうせコインが決めたことだから」と他力ならぬ、コイン力に頼るというのも、立派なストレス回避術ですよ。
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