朝起きたら腰から足にかけてビリビリする。何が問題なのか? 「枕外来」というユニークな外来診療を行っている「16号整形外科」(神奈川県相模原市)院長で、併設の「山田朱織枕研究所」代表を務める山田朱織医師に「快眠のコツ」を聞いた。
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■寝返りが重要な理由
──人は睡眠中に約20回も寝返りをするとされますが、なぜ寝返りが必要なのでしょうか?
「大きく3つの理由があります。まず最初は、寝返りは〈生命の維持〉に欠かせないということ。姿勢を変えることによって血液と体液、リンパや関節液を循環させる効果があります。2つ目は〈体温調節〉です。同じ姿勢のままでいると背中や腰といった特定箇所に熱がこもり、安眠の妨げになります。最後は〈背骨のリセット〉です」
──背骨のリセットとはどういうことですか?
「焼き鳥の串を思い浮かべてみてください。串が真っすぐでなければコロコロと回せませんし、うまく焼くことはできません。これは人も同じで、曲がっていると脊柱管狭窄症や座骨神経痛の原因にもなる。背骨のリセットは〈体の軸を整える〉ということなのです」
■パートナーでも一緒に寝るのはNG
──寝ているので意識はありませんが、寝返りを打ちやすくするにはどうするべきでしょう?
「朝、手のしびれがつらい方は、もしかしたら柔らかい枕やマットレス、凸凹の枕を使っていませんか。体が沈み込んだり、頭が枕で固定されてしまうと、寝返りの妨げとなります。また、パートナーと寝具を共にしたり、ペットとの添い寝もあまり推奨はできません。人が寝返りに必要な幅は最低でも75センチで、理想は90センチほどになります。隣に誰かが寝ていれば、当然ながら寝返りの妨げとなります」
──旦那のいびきがうるさくて眠れないというケースも聞きますが?
「いびきは、空気の通り道である気道が確保できないことに起因します。気道が閉塞することを防ぐため、やや高めの枕を使い、角度をつけて眠ると息を吐きやすくなります。当研究所で実証実験を行ったところ、高さの合った枕を使うとピタッといびきの音が消えたのですが、5ミリ高くても、5ミリ低くてもダメでした。また先天的にあごが狭い人もいますので、その場合は専門医に相談してみてください」
「枕外来」の整形外科院長に聞く どんな枕なら熟睡できますか?
──年齢によって「いい枕」は変わってくるのでしょうか?
「加齢と共に背中が曲がりますし(円背)、肥満や筋力低下など体形も変わってきます。適切な条件を満たした枕を使うことが重要で、〈高さが体格に合っていること〉〈適度な硬さがあること〉〈凸凹がなく平らであること〉が推奨されます」
──枕を新調する際は何を考慮するべきですか?
「当研究所では、10~15分ほど長く仮眠を取っていただきます。その際、筋肉の緊張を見させていただきます。枕は5ミリ刻みで高さ調節できますが、実は“自分に合う枕”というのは、頭で考えなくても体が答えを出しているもの。寝ても疲れが取れないのはその証拠で、枕やお布団からメッセージが届くのです。判断するポイントはいくつかあり、①朝起きた時に枕が頭からずれている②朝起きた時に手を上げていたり、手を敷いて寝ていた③朝起きた瞬間から首が痛い、肩が凝っている④しっかり寝たのに熟睡感がない、といった具合です」
──ストレスやうつ病などでも熟睡できなくなりますか?
「いえ、私は反対だと考えています。うつ病だから熟睡できないのではなく、熟睡できないから精神の疾患にかかってしまいやすくなるのです。『うまく眠れない』という症状を訴えれば、すぐに医師から睡眠薬が処方されますが、その前にまず、熟睡できる環境を整えましょうということ。その意味で枕と布団は重要なインフラなのです」
首の後ろには太い脊髄神経と細かい頚神経が散らばっている。椎間板ヘルニアなどの疾患が再発したりするのは、起きている時の姿勢ばかりでなく、寝ている時の姿勢にも原因があるという。体のメンテナンスに、いかに睡眠が重要なのかがわかる。
▽山田朱織(やまだ・しゅおり) 16号整形外科院長、山田朱織枕研究所代表。東京女子医科大学卒。同大学病院整形外科教室、付属第2病院(現・足立医療センター)、亀田総合病院、成瀬整形外科勤務を経て現職。全国の整形外科医との共同研究ネットワーク「睡眠姿勢研究会」を立ち上げ活動中。