高齢者の正しいクスリとの付き合い方

胃酸を少なくする効果が強い胃薬は誤嚥性肺炎のリスクを高める

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃薬には「胃を守る」という役割があります。特に胃酸によるダメージは大きいため、胃酸を少なくするクスリはよく使われています。では、胃酸を少なくすることによるデメリットはないのでしょうか?

 当然ですが、胃酸にも重要な役割があります。想像しやすいところでいうと「消化」が挙げられるでしょう。胃酸の中にはタンパク質を消化するための酵素が含まれているのです。他にも胃酸には「殺菌」という重要な役割があります。食べ物や口の中にも細菌がいます。食べ物や水分をのみ込むと、そういった細菌も一緒に消化管に入っていくことになります。でも、よほど古い(腐った)ものを食べない限り、お腹を壊したりしませんよね? それは、胃酸の効果で細菌を殺菌できているからです。

 胃酸による殺菌効果は、別の点でも極めて有用です。われわれの胃の入り口には「噴門」と呼ばれる蓋のような部分があり、そのおかげでのみ込んだ食べ物や胃酸といった胃の内容物が逆流しにくくなっています。ところが、噴門の機能は加齢とともに低下していくので、高齢になると胃の内容物が逆流しやすくなってしまいます。食べ物や唾液が気管に入って肺炎を起こすことを誤嚥(ごえん)性肺炎と言いますが、こういった逆流したものが気管に入ることも原因になります。

 本来であれば、胃から逆流してきたものには胃酸の殺菌作用によって細菌がほとんどいないはずです。しかし、クスリの効果で胃酸が少なくなっていると殺菌効果も低下しているため、細菌混じりの内容物が逆流してしまい、誤嚥性肺炎のリスクがかなり高まることが明らかになっています。特に「プロトンポンプ阻害薬」と呼ばれるクスリは胃酸を少なくする効果がとても強いため、胃を守るという効果は十分に期待できる半面、胃酸による殺菌効果はあまり期待できなくなってしまうのです。

 さらに、胃酸は骨に必要なカルシウムの吸収にも関わっています。クスリの効果で胃酸が少なくなっていると、カルシウムが十分に吸収できなくなってしまいます(厳密にはこれだけではありませんが)。そのため、プロトンポンプ阻害薬を使用している期間が長くなればなるほど、骨折のリスクが高くなることがわかっています。

 胃薬、特に胃酸を少なくするようなクスリは、胃炎や胃潰瘍といった病気から胃を守るという点でとても大切なものであることは間違いはありません。ただ一方で、胃酸にも重要な役割があり、われわれにとって胃酸は必要なものでもあります。ただやみくもに胃酸を止めれば良いというのではなく、クスリを使うことのメリットとデメリットを十分に考えて使う必要があるのではないでしょうか。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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