がんと向き合い生きていく

がん患者が生きがいを感じながら働けているか…繰り返し調査が必要

写真はイメージ
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 地球のどこでも、ウクライナでも、日本でも、同じく時を刻み正月が来ました。

 12月31日に亡くなった方がおられ、元旦に生まれた方もおられます。今年も、コロナ陽性になり、症状がなく自宅待機の方もいますが、重症でエクモを使い亡くなる方もおられます。がんで入院治療中の患者には、一時的に自宅で正月を迎えられた方、家に帰れず病院で正月を迎えた方がいらっしゃいます。

 テレビでは、松竹を飾った幸せそうな家庭を映した後、急に画面が戦場へと変わり、破壊されたビルが映ります。日本は77年前に原爆を落とされ、二度と「戦争はしない」と誓ったのですが、巨額の防衛費予算の審議、そして原発政策の大転換も打ち出され、びっくりしています。

 正月を迎えるにあたり、自宅の玄関に松飾りをつけて、部屋の掛け軸も替えたので、なんとなく新しい気分になります。小さな庭の南天の赤い実、紅白のツバキが咲くのを眺めていると、昼でも日本酒を少し飲みたくもなります。

 近くの神社での初詣は、元旦は避けて3日目の昼にしました。それでも30分くらい列に並びました。「家内安全」と「がん患者の早い回復」の祈りです。昨年の破魔矢をお焚きの場所に置き、新しいものを買い替えました。

 正月は、たった一人の孫、3歳になったばかりの男の子が来てくれました。一番の楽しみでした。毎週、送られてくる動画では会っていましたが、やっぱりじかに会うのが最高です。みんな健やかであることが一番大切とつくづく思いました。

■かつての患者から年賀状が届いた

 40歳女性のAさんから届いた年賀状は、うれしい知らせでした。

「がんと診断されてから、再発なく、昨年で5年経ち、6年目に入りました。万歳です。いろいろ相談にのっていただきまして、ありがとうございました。職場の部署は替わりましたが、うまく働けています。息子は今年で小学6年生になります」

 そうか、息子さんに会った時は、たしか小学校に入学して間もなくだった。良かった、良かった。

 年間約100万人が、がんと診断される時代です。生涯で2人に1人ががんに罹患し、がん患者の3分の1は20歳から65歳、働き盛りの方なのです。がんが早く制圧されることが最も大切ですが、がんと診断された方の仕事や就労も生きていくには大切なことです。

 がん患者の離職防止、再就職支援、医療機関と職場・地域の連携の必要性は、がん対策推進基本計画に明記されています。

 厚労省は2016年に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表しました。事業所として実施すべき環境整備、両立支援の具体的な進め方の指針です。がんと診断された従業員の雇用継続への配慮が「事業者の責務(努力義務)」と明記されました。2017年の働き方改革実行計画では、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整え、病気を患った人々が生きがいを感じながら働ける社会を目指すことが打ち出されました。

 しかし、個々の会社、患者個人個人で、実際の状況はずいぶん違っているように思います。会社や上司から理解され、問題なく治療や定期診察が行われ、仕事が充実している方もいれば、逆にとても苦労されている方もおられます。

 日本は、小規模の会社が多い国です。4年前、乳がんの手術をされた女性が定期検診のため休みを取ろうとしたとき、理不尽にも、上司から「採用面接のときにどうしてがんのことを言わなかったのか!」と怒鳴られたというお話を聞きました。

 その女性はとても優秀な方でしたが、結局、会社を辞めてしまいました。間もなく同僚の方も辞めてしまい、会社としても大きな損失だったと思います。

 がん拠点病院には、相談支援センターや相談室があります。どなたでもいろいろ相談できます。

 患者が生きがいを感じながら働けているか、上司の理解度など、国や都道府県は繰り返し調査することが必要だと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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