老親・家族 在宅での看取り方

病状が厳しいからこそ、自宅に戻って家族と一緒に過ごしたい

写真はイメージ
写真はイメージ

 在宅医療では基本的に、年末年始やGWなどの大型連休であっても、日常と変わらず訪問診療を実施しています。

 特に当院では医療依存度が高い患者さんが多いため、基本的に休みはありません。とはいえ、薬局などはお休みになることが多く、そのために例えばいつもは2週に1回の処方が、年末は3週分の処方になったりすることはあります。ただし、痛みを抑える医療用の麻薬などは、急に必要となるケースがありますから、年末年始も緊急対応してくれる薬局さんと連携するなどして、患者さんを支える体制を構築しています。

 そんな中、毎年の年末年始になると、なんらかの事情で在宅介護を中断し、病院での「レスパイト入院」を選択される患者さんが少なからずいます。

 レスパイトとは「一時休止」「息抜き」という意味。文字通り一時的な入院となり、介護するご家族の息抜きのためともなるわけです。

 在宅医療を始めると、もう病院には戻ることはできない、退路を断って在宅医療を始める覚悟でなければならない──。こう思っている方がよくいますが、そうではありません。レスパイト入院に限らず、やっぱり病院がよいとなれば、いつでも入院に切り替えられるのです。

 一方、余命を告げられた患者さんの中には、せめて年末年始の残された大切な時間を自宅で過ごそうと、あえてこのタイミングで在宅医療を開始される方もいます。

 その患者さんは、肺がんの末期で脳へも転移した状態の多発脳転移と、肺に空気が入らず、酸素を血液に取り込む効率が低下し呼吸困難を生じる無気肺を患う、旦那さんと2人暮らしの65歳の女性の方でした。

 病状としてはかなり厳しい。ご本人、ご家族ともに、それを十分に理解していました。旦那さんと近くに住む娘さんが相談し、お正月を前に、家に帰らせてあげたいとなったのでした。

「はじめまして」(私)

「よろしくお願いします」(夫)

「具体的な予後はお聞きでしょうか?」(私)

「新年は迎えられないかもしれないって。抗がん剤が効かなくなって、新しい抗がん剤のために入院したんですけど。なんとかお正月までもって欲しい」(夫)

 お正月は、娘さん夫婦とお孫さんみんなで過ごす予定とのこと。

「今、一番不安な点はなんでしょうか?」(私)

「特には、大丈夫です」(夫)

「まだ自宅に帰られたばかりですしね、これから過ごしてみてからだとは思いますが。もしも急に体調が悪くなった場合に看取られる場所は、ご自宅でと考えていますか?」(私)

「はいそのつもりです」(夫)

「呼吸が乱れた時に病院は希望されませんか?」(私)

「病院も自宅も変わらないですよね?」(夫)

「そうですね、救急車とはいえ、病院へ移動することが負担になりますので。極力苦しくないようにご協力させていただきます」(私)

「よろしくお願いします」(夫)

 あらゆる患者さんの事情に対応する。この在宅医療の役割の大切さを、改めて噛みしめた年の瀬となったのでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事