読者のみなさんの中には、「なかなか寝付けない」「寝付いても途中で何度も目が覚めてしまう」といった悩みを抱えている方もいらっしゃると思います。そして、「若い頃はいくらでも寝られたのに、年をとったらちゃんと寝られなくなった」という方も多いのではないでしょうか?
これらは、いわゆる「不眠症」というものです。人間、誰しもしっかり眠って、すっきり起きたいですよね。そこで、今回から睡眠とクスリについて何回か続けてお話ししていきます。
睡眠は体の調子を維持するために重要な役割を担っています。睡眠は、眠りが浅い「レム睡眠」と眠りの深い「ノンレム睡眠」に分類され、通常の睡眠ではこの2つを交互に繰り返しています。ちなみに、夢を見るのはレム睡眠のときになります。高齢の方はそうでない方と比べてレム睡眠の割合が増えるといわれていて、それが原因で高齢者では不眠症が多いとされています。なお、日本人全体では10人中約2人に不眠症があるといわれています。
さらに、不眠症には「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」があり、特に高齢者に多いのは後者の2つとなります。年をとると、先ほどお話ししたレム睡眠、つまり浅い眠りの割合が増加するというのが基本にあり、加えて夜間の頻尿などが原因になるケースもあるためです。
不眠症に対して治療が必要かどうかを判断する指標は、「眠気による不都合が日中に起こっているかどうか」になります。治療の基本は非薬物療法で、不眠の原因が明らかな場合はその原因を解決することが治療となります。たとえば、主に夜に活動して朝から眠るといったように生活リズムがおかしくなっていると、やはり不眠症の原因になります。寝る前にスマートフォンで動画を見るといった行動も同様です。
そういった原因が見当たらない場合や、原因を解決しても不眠が改善しない場合に、初めて薬物療法が選択肢に挙がってきます。クスリを使うにしろ使わないにしろ、睡眠は「○時間以上寝られればOK」というものではありません。周りから見れば時間が短そうに感じられても、日中の活動に問題がなく、本人が睡眠に満足していれば特に治療は必要ありません。
少し専門的な言葉になってしまいますが、不眠症に用いられるクスリには「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」があり、それぞれ効果を示すところが違ってきます。次回は、それぞれどんな効き方をするクスリなのか、どんな特徴があるのか、どんなところに注意すべきなのかについて紹介します。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方