「ペットセラピー」という言葉があります。これは、「動物と触れ合うことで“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンが増える」ということが科学的に立証されているので、動物と触れ合うことで気持ちを落ち着かせる、リラックスする--そうしたセラピーをペットセラピー、あるいはアニマルセラピーと呼んでいます。
欧米諸国ではアニマルセラピーが医療行為として信頼・認知されており、ペットと共に働く社会が受け入れられています。その一方で、日本ではペットに対する理解こそ深まっているものの、動物を活用した医療(動物介在療法)への理解が足りません。
読者の皆さんの中にも犬を飼っているという方は多いのではないでしょうか。犬を飼っている方ならピンとくると思うのですが、何となく愛犬が自分に似ていると感じる瞬間……ありませんか?
たとえば、マリー・アントワネットの愛犬がパピヨンだったり、具志堅用高さんの愛犬がボクサー犬だったり、飼い主と愛犬はどこか類似性があるから不思議です。
関西学院大学の中島が行った研究(2013年)に、「犬と飼い主の顔が似ている」ことを指摘したものがあります。
実験は、まず判定者500人に対して、飼い主と犬の写真を組み合わせ、そして飼い主と犬をランダムに入れ替えた写真を見せたそうです。その上で、「飼い主のみ目を隠す」「飼い主のみ口を隠す」「犬の目を隠す」「双方ともに目のみが露出」「双方ともに顔を隠さない」という具合に5種類のパターンに分け、どの飼い主と犬が正しい組み合わせかを回答してもらいました。すべて見えていたら何となく分かりそうなものですが、部分的にしか見えていないパターンの場合には、なかなかの難易度です。ところが「双方ともに目のみが露出」の写真であっても、正答率はなんと74%だったそうです。
逆に、目が隠れると正答率は水準、または水準以下に落ち込んだといいます。「双方ともに顔を隠さない」の写真の正答率が80%だったことを考慮すると、目の類似性こそが飼い主と犬が似ているポイントと言えそうです。
繰り返し接すると好意度や印象が高まる「単純接触効果」というものがあります。中島は、これが犬と飼い主の顔が似る一因になっているのではないかと推察しています。
また、米ミシガン州立大学のチョピクとウィーヴァーの研究(2019年)では、約1700匹の犬の飼い主たちに、自分自身の性格と飼い犬の性格について比較してもらったところ、「犬の性格は飼い主に似る」ことが分かったといいます。
協調性の高い人は活発な犬を飼う傾向が、そうではない人の2倍ほど多く、神経質な飼い主は「自分の犬は怖がり」と評する傾向が高かったそうです。さらには、飼い主が高齢だった犬は、若い犬に比べて活動性が低いということも統計的に見てとれたというから面白いですよね。のんびりした飼い主のそばにいると、のほほんとした性格になってしまうことが示唆されたのです。
犬という動物は、心を通わせることができる愛おしい動物なのです。
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