Dr.中川 がんサバイバーの知恵

後藤祐樹は「変わってあげたい」と…妻が子宮頚がん、夫も悩む子供と治療の問題

家族力が問われる(写真はイメージ)
家族力が問われる(写真はイメージ)

 妻ががんになったら、夫もつらいでしょう。そう思わせるツイートが話題になっています。元モーニング娘。の後藤真希さん(37)の弟でタレントの後藤祐樹さん(36)の投稿です。

 報道を総合すると、後藤さんの妻は、不妊治療を受けている婦人科で子宮頚部に異常が見つかり、総合病院で精密検査を受けたそうです。その結果、「陽性反応が出てしまいました」と投稿しています。

「自分が変わってあげたいけど、100%できない」と苦悩を吐露。問題はここからで、「検査結果を待って、その状態によっては不妊治療とかできなくなる可能性もある」という言葉です。

 がんはもちろん、大病は家族の問題に直結しますが、子宮頚がんは家族の未来予想図を変えかねません。晩婚化・晩産化の今、後藤さんのようなケースが他人事ではないということです。

 毎年約100万人ががんと診断されるうち、3割が20~64歳の現役世代。国立がん研究センターの推計によると、18歳未満の子供を持つがん患者は年間約5万6000人いて、子供の数は約8万7000人に上ります。がんになる親の平均年齢は、男性47歳、女性44歳です。

 子宮頚がんの発症のピークは30代後半。英語でマザーキラーと呼ばれるゆえんです。診断時の子宮頚がんの状態によっては、子供を望む夫婦は子供をあきらめたり、母の命を奪われたりするかもしれません。幼い子供を育てている真っただ中だと、ママの病気や不幸をどう伝えるのか。そんな不安もあります。

 まず幼い子供のフォローには、がんを正しく伝えるのがひとつ。小学生でもネットでがんを調べられる時代です。ウソは、子供を傷つけます。2つ目はがんが伝染する病気ではないこと。子供の社会では、伝染する→怖いという連想が働きやすく、これを断つことが、子供の友達との関係を保つうえでも大切。そして、がんの原因は、子供のせいではないこと。この3つを子供に分かる言葉で伝えるのです。

 治療は妊娠を希望する場合、円錐切除、子宮頚部のみを切除して子宮体部を温存する広汎子宮頚部摘出術などがありますが、ステージ1Bまで。早期発見が重要です。しかし、子宮頚がん検診を20歳から定期的に受けているのは3人に1人。受診をお勧めします。

 妊娠を希望しない場合は、放射線がベター。手術では、卵巣やリンパ節も一緒に切除するため、女性ホルモンが途絶え、更年期症状やリンパ浮腫が重く続きます。放射線ならありません。

 もし妊娠が難しいときは、特別養子縁組制度を使ってもよいと思います。実は私の母も養子でしたが、祖母は実の娘と同じように育てました。

 マザーキラーは、晩年のがんとは異なる問題を突きつけます。男性も他人事ではなく、家族力が問われるがんです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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