先日、奥さまと娘さんと3人暮らしの男性(80歳)が、ある大学病院からの紹介で私たちの在宅医療を開始することになりました。患っている病気は、慢性閉塞性肺疾患と肺がん。慢性閉塞性肺疾患は、慢性気管支炎や肺気腫の総称になります。
ご紹介いただいた病院からは、検査のために入院してもらったものの、検査は画像検査のみで、放射線や抗がん剤治療、さらには手術といった積極的な治療はもはや困難とのことでした。そのため、病気による苦痛を和らげ、人生の最期を穏やかに過ごす、いわゆる「ホスピス」としての役割を求めて、私たちに依頼があったのでした。
ホスピスというと、かつては病院の緩和ケア病棟に限られていましたが、いまや自宅で行う在宅医療において重要な役割となってきています。
「息苦しさがあるって伺いました」(私)
「まあ我慢できないほどじゃないですけど」(娘)
「足のむくみはもともと?」(私)
「病院にいた時からです。座ることが多く足を下げるようになってからもっとひどくなって」(娘)
「食事は?」(私)
「だめ、食べられてないです」(娘)
食事に関しては、主治医の先生からの申し送りにも、「食が進まずゼリーや果物中心。主食はあまり食べられてはおらず、もっぱら点滴」とありました。そしてその理由について、「病院食がおいしくないためであり、家に帰ったら食べるかもしれないし、もしも、食べられるようになれば高カロリー輸液も必要なくなる」との内容をいただいていました。ご家族としても自宅に帰り少しでも食欲を回復されることを期待されていました。
「出血は? 便とか?」(私)
「出てはいます」(患者)
「出ていますか!?」(私)
「今日のは茶色かった」(患者)
「お尻からのはそうだけど、違うよ」(娘)
十二指腸潰瘍出血の影響も見られるご様子。さらに痰も。
「痰みたいなのが上がってくるってことかと思うんですが、なんかぶどうみたいなのが」(娘)
「たぶん痰の方は肺がんもあるので、そちらの方からなのかなと思います。では止血剤をお出ししますか?」(私)
「出していただけるならお願いします」(娘)
「明日は輸血する方向で準備しますね」(私)
今後の緊急時の対応については、大学病院でのフォローは継続しつつ、なにかあれば血液内科に相談できること、そして、もしも出血があれば消化器内科、肺であれば呼吸器内科などとの連携も従来通りあることを患者さんとご家族とにお伝えし、まずは安心していただきました。そうして在宅医療を開始してちょうど1週間後、静かに旅立たれていかれたのでした。
入院中には眠剤の影響か、錯乱してベッド柵を乗り越え、夜中に外出しようとしていたというのがウソのように、自宅では最期まで穏やかに過ごされていました。
老親・家族 在宅での看取り方