Dr.中川 がんサバイバーの知恵

精巣がんでは精子凍結保存で抗がん剤治療後の子づくりに備える

「爆笑問題」の田中裕二さん
「爆笑問題」の田中裕二さん(C)日刊ゲンダイ

 精巣にがんが……。そんな診断を受けたら、男性は男としての行く末を考えるかもしれません。そのがんと闘っているのが、ダルビッシュ賢太さん(31)。そう、WBC日本代表で投手陣の大黒柱・ダルビッシュ有さん(36)の弟で、SNSに抗がん剤のつらさを吐露しています。

 精巣がんは昨年に判明し、睾丸を摘出。その半年後にリンパ節転移が分かったため、3種類の抗がん剤を使用しているとのこと。その副作用で発熱や味覚障害などが生じ、「地獄を見ました」といいますが、回復した今は「急に楽になり、嬉しすぎて」投稿したそうです。

 この精巣がん、男性全体では1%ほどですが、15~35歳では最も多い。健康な睾丸は、大きさや硬さに左右差がありません。

 発症初期は、痛みがなく、しこりや腫れが症状です。硬さはスーパーボールほど、大きさは鶏卵ほどになることも。トイレや入浴、セックスなどで触ったときに気づくことになります。

 5年生存率は、転移がないステージ1は100%で、リンパ節のみに転移したステージ2は90%です。抗がん剤がよく効きやすく、治りやすい。ですから、若い人は入浴時などのセルフチェックが欠かせません。

 このがんには、明らかなリスクがいくつかあります。その因子がある人はぜひお勧めです。

 リスクの1つは、停留精巣です。精巣は元々、胎児のお腹の中にあり、出産までに少しずつ下りてきて体の外の睾丸に収まります。3%の頻度で睾丸に入らないまま生まれてくるのが停留精巣。そうでない人に比べて3~14倍の精巣がんリスクです。もう1つは、片方に精巣がんがある人で、もう一方に発生するリスクは20倍以上。3つ目が家族歴で、親が精巣がんだと同4倍、兄弟は同8倍です。

 こうした要素があるため、丁寧な経過観察がとても重要になります。さらに細胞の種類は、セミノーマと非セミノーマに分けられ、後者は転移しやすいため、後者ならなおさらです。

 皆さん気になる睾丸摘出について。一方を切除しても、もう一方が正常なら問題ありません。爆笑問題の田中裕二さんは良性の精巣腫瘍で片方を摘出しても、子宝に恵まれています。

 ただし、抗がん剤を使うと、精子形成の回復が難しい。若い男性に多いだけに、将来の子づくりに備えると、精子の凍結保存が必要になります。賢太さんも行っているかもしれません。

 男性にとっては股間がむずがゆくなるような気持ちになるかもしれませんが、がんの中ではかなり治りやすい。WBCでの兄の活躍を励みに、賢太さんも順調な経過をたどると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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