老親・家族 在宅での看取り方

在宅医療は「片道16キロ圏内が望ましい」が規定だが例外もある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 この冬、「急性骨髄性白血病」を患う70歳の女性が在宅医療を開始されました。息子さんご夫婦と同居。過去に乳がんの切除手術を受けたことがあります。最近、貧血が進行して通院が困難となり、在宅に切り替えたとのこと。白血病治療のための血小板・赤血球の輸血の対処ができることが必須であり、私たちの診療所にコンタクトがありました。

「2月10日で退職して」(患者)

「お仕事されていたんですね」(私)

「昨年の6月に入院して。そこから入退院を繰り返す感じで、抗がん剤の一番強いのにチャレンジしたんですけど、ダメで。そこから緩和ケアになって、ちょっとまた仕事していたんですけど」(患者)

「血小板の数値が下がっていますね」(私)

「5年前から白血球がすごく増えて、5月になって入院した方がいいって」(患者)

 体調の急変に動揺されつつも、自宅に戻った安堵感を噛みしめていらっしゃるご様子。

「以前の輸血は病院ですね」(私)

「左腕からしました。わたしは左側のリンパ取っているので、いつもは右側なんですけど、腫れてからは左腕で」(患者)

「自宅で輸血する同意書にサインお願いします」(私)

「今日は血小板?」(患者)

「赤血球と血小板の両方です」(私)

「時間かかりそうね」(患者)

「ずっとそばにいるので病院より早めに終わりますよ」(私)

「ホント!? うれしいわ」(患者)

 実は、輸血はどの在宅医療のクリニックでも行っているわけではありません。ペースメーカーのチェック、ときに専門的な処置が必要となる「褥瘡」(床ずれ)、食物や水分や医薬品を投与するために腹壁を切開して胃内に管を通す「胃ろう」なども同様です。

 また、知っておいていただきたいこととして、規定により在宅医療を行う医療機関は、患者さんの自宅からの距離が片道16キロ圏内であることが望ましいとなっていることです。

 ただしその圏内に、輸血など患者さんが求める診療を実施できる医療機関がない場合や、たとえ医療機関があったとしても往診などを行っていない場合は16キロ圏内でなくても可能です。ちなみにこの患者さんのご自宅は遠方ですが、ぎりぎり16キロ圏内でした。

 ですから、今かかっている病院や地域包括支援センターに在宅医療のクリニックを紹介してもらう場合は、対処してほしい具体的な医療対応、その他さまざまな疑問や不安を伝えることが大切。そうすることでより納得できる在宅医療を受けられるのです。

「最期はどうなっていくんですか?」(息子)

「徐々に意識が下がることもありますし、夜まではお話ししていたのに、朝起きたら様子が変わっていることも。急なことでびっくりされると思いますが、まずは我々のところにお電話してもらえれば大丈夫ですから」(私)

「はい」(息子)

 遠距離でも安心して信頼していただく。それが在宅医療の一丁目一番地なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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