目がショボショボ、ゴロゴロする。目が疲れる。目が乾いた感じがする──。これらの症状があればドライアイが疑われるが、目薬をさしても改善しない場合、「油分」が足らないのかもしれない。
近年、注目を集めているのが、目の疾患である「マイボーム腺機能不全」だ。今年2月、初の診療ガイドラインが発刊された。作成委員のひとりである東邦大学医療センター大森病院眼科・堀裕一教授が言う。
「マイボーム腺機能不全についてはかなり以前から問題視されていましたが、治療法がありませんでした。しかしこの10年で状況が大きく変わりました。そこで、ガイドラインが発刊される運びとなったのです」
マイボーム腺とは眼瞼内にある器官で涙の構成成分の油を分泌する。マイボーム腺の出口が詰まって油が分泌されなくなったり、マイボーム腺の萎縮や脱落で油の産生能力が落ちるのがマイボーム腺機能不全だ。
「ものを見る上で非常に重要な働きを担う角膜を守っているのが涙液(涙)です。涙液の最も表面にあるのが油層で、その次が水層、さらにその次がムチン層です」(堀教授=以下同)
涙液の油層、水層、ムチン層が十分に分泌されてこそ涙液が安定し、しっかり角膜を守れる。言い換えると、どれかひとつでも量が少なくなれば、目の不快感や異物感、乾燥感、痛み、眼精疲労などのさまざまな症状が出てくる。よく知られる「ドライアイ」だ。
ドライアイは、涙腺から分泌される「水」の不足が原因と長らく考えられてきた。
「しかし、マイボーム腺機能不全による油の不足も大きく関わっていることが分かってきたのです」
ある報告では、ドライアイ全体のうち、油不足(涙液蒸発亢進型)が50%を占めるのに対し、水不足(涙液分泌減少型)は14%。油不足が水不足を大きく上回る。
ただ、油の分泌に対する治療法はなく、“水不足”への治療しか行われていなかった。水が潤えば、少ない油の量でも効率よく使えるので、症状は和らぐ。しかし根本的な解決にはなっていないので、完全に不調は取れない。また、治療をストップすれば、症状がぶり返す。
「それが、この10年でマイボーム腺機能不全に対してエビデンスが確立され、薬や治療機器が登場。マイボーム腺機能不全の根治も可能になってきたのです」
治療として、ガイドラインでも「強く推奨する」となっているのが、温罨法だ。
■「くっきりアイライン」に要注意
「世界中で認められている方法で、ご家庭で自分でできます。ホットアイマスクや温かいタオルでまぶたを温め、マイボーム腺の出口が油で詰まっているのを溶かすのです。治療法であり、予防法でもあります」
アイラインなど化粧の汚れでマイボーム腺が詰まっている人もいる。化粧を落とすのとは別に、まぶたをよく洗うことが必要。目の中に入っても目が痛くならない、まぶたを洗う専用の「アイシャンプー」も販売されているので、これを使うのも手だ。
炎症が起こっている場合は、アジスロマイシン点眼薬やテトラサイクリン系内服薬を用いる。眼科で処方される。
「どの眼科でも受けられるわけではありませんが、IPL(Intense Pulsed Light)やサーマルパルセーションシステム(Lipiflow)といった新しい治療もあります」
IPLは光を当てて炎症を取り除く。サーマルパルセーションシステムは、専用の治療機器で眼瞼を温め圧迫する。自費診療のため費用はかかるが、その効果の高さから、定期的に受けるマイボーム腺機能不全の患者もいるという。
マイボーム腺機能不全かどうかは症状だけでは判断できない。眼科での診察が必要。難しい検査ではなく、眼科医であれば診断は容易だ。
「マイボーム腺機能不全は、加齢によって起こりやすくなります。失明する病気ではないものの、生活の質(QOL)が低下しますし、実用視力(実際の視力)にも影響を与えます」
目の不調を感じている人は、眼科で相談を。