名医が答える病気と体の悩み

嚙み合わせが悪いと認知症の発症リスクが高まるのは本当か?

写真はイメージ
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「噛み合わせ」が正しい位置にあると、認知の原因物質となるアミロイドβが減少したとの研究が、岡山大学によって発表されました。しかし、これはラットを用いた研究なので、人間でもアミロイドβが減るとは言い切れません。ですが、「噛み合わせ」「噛むこと」「咀嚼(そしゃく)」がアルツハイマー型認知症に関係していることは多くの研究で分かっています。

 たとえば、上下の歯の噛み合わせが悪いと歯と歯が当たりすぎる場合があり、その結果「歯ぎしり」や「食いしばり」を起こします。そのため、歯にひびが入り、歯は割れやすくなってしまいます。

 歯がまったくなく入れ歯をしていない人は、歯が20本以上ある(ない場合は入れ歯を使用している)人と比較して、認知症のリスクが1.9倍上がるという神奈川歯科大学の研究があります。東北大学が実施した70歳以上の高齢者を対象とした調査では、健康な人は14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人では残っている歯は平均9.4本でした。歯の残存数が少ないほど記憶に関係している海馬や、思考の機能をつかさどる前頭葉の容積などが少なくなっていたこともわかり、歯を喪失すると「噛む」ことによる脳への刺激が少なくなり、脳の働きに影響を与えてしまうと考えられています。つまり、噛み合わせの悪さからくる歯ぎしり、歯の喪失は認知症につながるのです。

 さらに、歯ぎしりは睡眠障害にも深く関係しています。睡眠時の「歯ぎしり」「食いしばり」は、眠りを浅くさせ起きやすくなるので、睡眠障害につながります。睡眠障害の人は認知機能の低下をもたらし、認知症を発症させる確率を30%も高くさせるので、認知症を発症させないためにも、早期に改善する必要があるといえるでしょう。噛み合わせの悪さで睡眠の質を下げないように工夫も大切です。

 寝るときに枕の高さが合っていないと、ストレートネックなどの首の形によっては、舌が正しい位置に収まらず、気道が細くなってしまうことで噛み合わせがずれてしまいます。ですから、自分の首に合った寝具を選んで噛み合わせを改善し、正しい位置での噛み合わせで寝ることを日頃から習慣化させることが大切です。

 さらに、晩酌が好きな人も要注意です。お酒を飲んで寝ると、アルコールの筋弛緩作用によって体に力が入りにくくなり、顎の筋肉が緩みます。そのため、ちゃんとした位置での噛み合わせが難しくなってしまいます。少し面倒くさいと感じるかもしれないですが、寝るときに顎を正しい位置で固定する専用のマウスピースを着けて寝ると改善しやすいです。

 また、日中に仕事をしているときなども、姿勢が悪いまま集中して作業していると、首や肩、頬の筋肉の張りや凝りによって噛み合わせもずれる場合があります。パソコン作業をする場合には、椅子の位置を低くして、首と画面が垂直になるように工夫するといいでしょう。

▽藤巻弘太郎(ふじまき・こうたろう) 日本歯科大学卒業後、都内クリニックでの勤務経験を経て、2016年にぶばいオハナ歯科を開業。著書に「オーラルケアで手に入れる美と健康」(アイシーメディックス)。東海大学医学部特任研究員も務める。

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