老親・家族 在宅での看取り方

最期の時を飼い猫と一緒に過ごしたい…だから自宅を選ぶ

写真はイメージ
写真はイメージ

 在宅医療を選択した患者さんの中には、自宅でペットを飼っている方が結構いらっしゃいます。実際に訪問先でさまざまな可愛いペットに出合うこともあり、動物好きなスタッフなどは訪問先で和まされることもしばしばです。

 そんな家族の一員として患者さんに寄り添うペットの姿や、そのペットに癒やされ安心されている患者さんの姿を目にするたびに、在宅医療におけるペットの役割の大きさに気付かされるのです。

 ペットと一緒に療養生活を送れるというのは、ペットを飼う方にとって、在宅医療の大きな利点といえるのかもしれません。

 実際ペットとの生活は心の張りとなり、ペットとの触れ合いでストレスが軽減され、情緒的にも身体的にも良い影響を及ぼすものです。結果として患者さんのQOL(生活の質)向上につながり、特に高齢者の方にとってはその傾向が顕著といえるでしょう。

 心不全と貧血を患う90歳の女性。2世帯住宅で、2階には長男夫婦が住み、ご自身は長女と一緒に1階で暮らしています。

 これまで入院していた病院では、月に1度の輸血を受けていました。しかし、原因を探るための精査はもう受けたくないということで、在宅医療へ切り替えたのです。貧血で心不全の悪化を繰り返しており、利尿剤などによる対症療法でコントロールしていきたい、との希望がありました。また、ご家族の希望としては「退院し自宅に戻ったら、点滴を外し、食べたいものや飲みたいものをできるだけ食べさせてあげたい!」というもの。

 病院ではリハビリも進まず、退院時には車椅子でさえ長く座ることができないほどで、確実にそして緩やかに衰えていくご様子でした。しかし、在宅医療を本人に決断させたものは果たして、自宅で飼われている1匹の猫ちゃんに会うためだったのでした。

「もともと元気で病院に本人が歩いて行って輸血していたんですが、年末に緊急で違う病院に搬送され、入院中に食が細くなって精神的にも参っちゃって、家に帰りたいって希望だったのでかなえてあげたいなって」(長男)

「最後の輸血はいつでしたか?」(私)

「先週かその前って」(娘)

「口から取りますか、それとも点滴で?」(私)

「飲めます」(患者)

「そうしたら、まずは口から水分を取ってもらって、今日ダメそうだったら明日から再開できるようにしましょうか」(私)

「1日の最低は?」(患者)

「食事の状況も見てですが、500ミリリットルですかね」(私)

「そんなに飲めないよね」(患者)

「水じゃなくてお好きなドリンクでいいですよ」(私)

 私たちのやりとりをまるで聞いているかのように、患者さんのベッドの下で猫ちゃんが丸まっています。

 その瞬間なんとも穏やかな時間が流れているのを感じたのでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事