科学が証明!ストレス解消法

マルチタスクはシングルタスクよりも作業効率を低下させる?

写真はイメージ
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 電話をしながら、パソコンで資料を作成する。料理を作りながら、LINEで連絡を取り合う。複数のタスクを同時に行うことを、いわゆる「マルチタスク」と呼びますが、得意な人もいれば、不得意な人もいるのではないでしょうか。

 同じ時間を使って、複数のことを同時にこなしてしまうわけですから、一見するとマルチタスクは生産性を上げることができるように思えます。しかし、実際には注意の散漫化によって、作業効率が低下するともいわれています。

 マルチタスクを行うと、脳のリソースは分散されます。たとえば、電話だけをしているなら、脳のリソースは「話す」「聞く」「(話を)理解する」といったのみに注がれますが、電話に加えて資料を作成するとなると、「タイピング」などさらにリソースを割くことが増えてしまいます。

 わかりやすく伝えるなら、運転をしながらモニターでテレビを見ていると「危ない」ですよね? このように他分野に脳のリソースを割いてしまうからこそ、注意の散漫化や疲労感といった副作用が生じてしまうのです。

 スタンフォード大学のワグナーらは、マルチタスクが認知コントロールにどのような影響を与えるかといった調査を行っています(2009年)。実験ではマルチタスクに慣れた大学生を対象に、注意力や作業記憶に関する課題を行わせ、シングルタスクのケースとマルチタスクのケース、双方を比較しました。被験者の脳のMRI画像を撮影して、認知コントロールに関する脳の活動を調べてみたそうです。

 その結果、マルチタスクに慣れた被験者は、シングルタスクに比べて、作業中に認知コントロールを行うための脳の活動が低下。また、マルチタスクの方が、作業中に不必要な情報に注意を払う傾向があることも明らかになったといいます。

 その一方で、香港中文大学らのルイらは、「マルチタスクが認知能力を改善することはあるか」について調査(2012年)をしているのですが、マルチタスク能力と多感覚統合能力は、正の相関関係があると、リポートしています。

 多感覚統合能力とは、複数の感覚情報を統合して処理する能力。例えば、視覚的な情報と聴覚的な情報を同時に処理して、より豊かな情報を認識できる能力などが挙げられます。ルイらによれば「マルチタスクに慣れた人は、多感覚統合においても高い能力を示す傾向がある」と指摘しています。

 もちろん、多感覚統合能力は個人差がありますから、マルチタスクが得意な人=多感覚統合能力が高いとは一概には言えません。ですが、マルチタスクが必ずしも作業効率を低下させるとも言い切れないのです。

 人には得手不得手があります。誰かから、「AとBを同時に進行した方がいいよ」などと言われても、マルチタスクが苦手な人にとってはストレスにしかなりません。対して、得意な人はスイスイとできてしまう。自分のペースと自分流のやり方を尊重することこそ、ストレスを増やさない働き方ですよ。



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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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