がんと向き合い生きていく

老化した体のあちこちが気になってルーティンワークが増えた

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Gさん(70歳・男性)は会社をリタイアして5年になります。そんなGさんの毎日のルーティンワークを紹介します。

 朝、起きて、ヒゲを剃り、顔を洗います。そして朝食後に歯を磨きます。 朝食はパンですが、食べ方があります。厚切りのトースト1枚に、まず納豆1パックをのせて塗ります。その上にシラス、ハム2枚、一番上にとろけるチーズを1枚のせ、それから焼きます。自分では、栄養があってとてもおいしいと思っています。しかし、自慢してまわりに勧めても誰も試してくれません。

 それにプラスして、野菜ジュース、少し牛乳を加えたコーヒーを飲みます。朝食はこれで完璧だと思っています。

 昼は時々、コンビニの海苔がパリパリしているサケのおにぎりを買います。最近のコンビニでは、イクラのおにぎりなどおいしいものが揃っていて、選ぶのが楽しみです。

 寝る前のルーティンはたくさんあります。以前、奥さんから「男はいいよね。寝る前に何もしなくてよくて。ただ、酒を飲んで、寝てしまうのだから。女は化粧落としや髪の手入れ、いろいろあるのよ」と言われたことがあります。しかし、Gさんは長い間、体の手入れが悪かったせいか、今になってたくさんのルーティンが必要になってしまいました。

 若い時に深酒をして帰った時は、そのまま歯磨きもせず寝ていました。翌朝には「もう飲むまい」と決心しても、夕方にはどうしても飲みたくなるのでした。これは自分でも不思議に思いました。

■がんではないと分かってはいても…

 10年ほど前、夜中に目が覚めるようになり、奥さんからはイビキがひどいのを注意され、睡眠クリニックに行ったら、睡眠中の酸素濃度が低いことが分かり、睡眠時無呼吸症候群の治療で使われるCPAP(シーパップ)という機械を就寝時に装着することになりました。CPAPはマスクで顔を覆うので、最初は寝苦しく感じたのですが、今では装着したほうが安心して眠れる気がしています。ただ、朝、目が覚めた時、マスクが顔から外れていることがあります。

 以来、睡眠中に記録されたデータ(SDカード)を持参して、月1回、診察時に見ていただいています。

 CPAPを始めた頃から、一番弱いという睡眠薬を飲んでいます。夜中に目が覚めることがなくなったのですが、よく夢を見ます。夢の多くは現役時代のことで、朝、目が覚めると、現実にがっかりしてしまいます。ほかにも寝る前に緑内障の点眼薬をさしています。

 昨年の秋には、ベランダから庭に下りた時に、腰を痛めてしまいました。それ以来、下肢、足底のしびれが続いています。整形外科で脊柱管狭窄症と診断され、内服薬が処方されています。両下肢はしびれたままですが、動きは大丈夫のようです。寝る前にストレッチをしています。

 最近は便秘が続くようになりました。大腸がんを心配して内視鏡検査を受けましたが、幸い、大腸にはがんはなく、寝る前に緩下剤でコントロールするようになりました。

 老化した体のあちこちが気になります。今日は腰、昨日は目がかすみ、一昨日は便秘などなど……。それががんでなかったことは検査で分かっています。がんで闘病され、自分よりももっともっとつらい方がおられるとは分かっていても、ひとり部屋にいると、神経は自分の体に集中し、さらに自分の病気をつくってしまっているような気もしています。

 寝る前には、床の中でラジオのニュースを聞きます。最近、思うのは、人の命の重さです。「人の命は地球よりも重い」と議論したのは、もう50年も前になります。今は、その頃よりも命が軽くなっているのではないか。

 しかし、一番の問題は温暖化で、地球は人が住めなくなるのではないか、戦争をしている場合ではない──などと憂いながら、Gさんは、もう一度、戸締まりを確認して休みます。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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