第一人者が教える 認知症のすべて

軽度認知障害の時期に対策を講じれば、健康な状態に戻れる

写真はイメージ(C)iStock
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 認知症で最も多くを占めるアルツハイマー型認知症。治す薬が現段階では登場していないことから「早期診断に意味がない」と思う方がいるかもしれません。

 しかしアルツハイマー型認知症は、症状の進行が非常にゆっくり。早期に見つけ、対策を講じることで、自活した生活を長く送ることができます。

 もっといいのは、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)やMCIよりも前の無症状の段階で、「脳を活性化させる生活」を送ること。

 MCIの時期に何もせずに過ごすと、1年で10%、4年で40%が認知症に移行するという報告もあります。一方で、MCIの時に対策を講じれば、健康な状態に戻れるという報告もあります。

 誤解してほしくない点なので、強調して伝えておきたいのですが、認知症になったからといって、「人生終わり」ではありません。これは、ぜひ念頭においていただきたい。

 そのうえで、「脳を活性化させる生活」というのは、運動したり、食事内容に気を配ったり、人と交流したり、新しいことにチャレンジしたり……といった生活であり、さらには人生を豊かにする生活なのです。

 人生100年時代を存分に楽しんだ結果、認知機能の低下も抑制できたーー。そんな気持ちで、生活改善に取り組んでもらえれば、と思っています。

せん妄の75%は無気力が特徴の低活動型ともいわれている(C)iStock
せん妄の75%は無気力が特徴の低活動型ともいわれている(C)iStock
せん妄との鑑別に注意が必要。「急激な症状」かどうかがポイント

 アルツハイマー型認知症が疑われる場合、病院ではどのように診断していくのか? 一般的に、問診票への記入後、本人や家族に対しての医師の問診、診察(内科的診察、神経学的診察、認知機能検査)と共に、画像検査が行われます。

 認知症の診断で最初に注意が必要なのは、せん妄との鑑別です。高齢で入院すると、多くの場合にせん妄が生じます。興奮や多動などを伴う過活動型のせん妄であれば比較的鑑別しやすいのですが、せん妄の75%は無気力が特徴の低活動型ともいわれており、一見、認知症のようにも思えます。

 見極めのポイントとなるのは、「急激に発病」したかどうか。認知症であれば、「急激に」というのはありません。せん妄であれば、それを引き起こす因子(多くは薬や身体疾患)が取り除かれれば回復します。

 ほかに間違われやすい病気としては、まずうつ病をはじめとする精神疾患。老人性のうつ病を認知症と、また逆に認知症をうつ病と診断されるケースがあります。両方が一緒にある場合もあるので、診断が難しいのです。

 次に、てんかん。てんかんで物忘れが生じることがあり、それを認知症と診断されることがあるのです。発作の有無の詳しい聞き取りや、脳波の検査が、てんかんの見極めに役立ちます。

 これらの病気でもなく、やはり認知症が考えられる--。ここから先で重要になってくるのは、「治る可能性のある認知症かどうか」あるいは「ほかの病気に伴う認知機能低下かどうか」です。

 認知症はいろんな症状の集まりである状態、医学的には「症候群」と呼ばれるもので、病気の名前ではありません。認知症の中には、いくつかの病気があるのです。どの病気に該当するのかで、治療や対応が異なります。

 治る可能性のある認知症としては、〈表〉の通り。また、甲状腺機能低下、ビタミンB欠乏、肝脳疾患があると、それらの身体的病気に伴い、認知機能低下が見られることがあります。

 いずれも、画像診断、血液検査、生化学検査などで調べます。治らない認知症(アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など)であっても、治る可能性のある認知症を合併しているケースもあります。超高齢社会で認知症患者も多いため、「なんでも認知症(なんでもアルツハイマー型認知症)」とされる傾向がありますが、問診や認知機能検査だけで認知症とひとくくりに診断するのは危険です。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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