第一人者が教える 認知症のすべて

「物忘れ」とは最近やさっき起きたことの記憶を保持できない

「物忘れ」とは…
「物忘れ」とは…(C)日刊ゲンダイ

 アルツハイマー型認知症の話の中で、必ずといっていいほど出てくる言葉が「物忘れ」です。ではみなさん、「物忘れ」って、具体的にはどういうことを指すと思いますか?

 認知機能低下を心配して来院した方やそのご家族に「物忘れはありますか?」と聞くと、多岐にわたる答えが返ってきます。

 医師の側としては、アルツハイマー型認知症でよくみられる短期記憶障害の有無について聞いていても、注意障害、遂行機能障害、意欲低下なども「物忘れ」に含まれていることがしばしば。注意障害は、注意が散漫になったり、2つのことを同時にやることが難しくなるなど、遂行機能障害は、家電の操作が苦手になるなどです。

 短期記憶障害は、短期に起きた情報を記憶する脳機能が低下すること。若かったときにやったことなど、昔の経験はよく覚えています。

 一方、最近、あるいはさっき起きたことの記憶を保持できない。「物忘れ」というより「物覚えが悪くなる」といったほうがわかりやすいかもしれませんね。

 短期記憶障害のよくあるケースは<表>にある通りです。

認知症になるとさまざまな障害が生じる(写真はイメージ)
認知症になるとさまざまな障害が生じる(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ
スクリーニング検査は確定検査とは違う。より総合的な判断が必要

 認知症になると、認知機能低下(記憶、見当識、言語、注意と集中、計算、学習、思考、判断の障害)のほか、心理・行動症状(幻覚・妄想、不安、抑うつ、易刺激性、脱抑制)、日常生活能力(ADL)の低下など、さまざまな障害が生じます。それらに対しては、複数の評価法が登場しています。

【MMSE(ミニメンタルステート検査)】

「Mini Mental State Examination」の頭文字をとったMMSEは、日本で最もよく使用されている簡易認知機能検査のひとつ。国際的にも通用するものになります。1975年に開発されました。

 設問は、全部で11項目。ちょっと長いですが、どういうものかを挙げましょう。

「時間の見当識(『今日は何日ですか?』など)」「場所の見当識(『ここは何県ですか?』)」「物品名の復唱(『桜、猫、辞書』など、質問者が言った3つの単語を繰り返してもらう)」「注意と計算(暗算での引き算や、単語を逆から言う逆唱)」「再生(新しく覚えた記憶を保持し、思い出せるかを確認)」。

 さらに、「物品名の呼称(ありふれたものを見せて、名称を答えてもらう)」「復唱(ある程度の長文を質問者が伝え、同じように繰り返してもらう)」「理解(3段階の指示を出し、順番に実行してもらう)」「読解(書かれた文章を読み、その指示を実行してもらう)」「書字(自由に作文)」「図形模写(ある図形を見せ、同じように描いてもらう)」。

 各項目で点数が異なります。すべて正解で30点。27点以上が異常なし、22~26点が「軽度認知症の疑い」、21点以下が「どちらかというと認知症の疑いが強い」。ただし、MMSEはスクリーニング検査であって確定検査ではありません。文章理解や記述、描画など、学歴や職歴の影響も受けやすく、また年齢が考慮されていないので、65歳以下では判断が難しい。

【改訂版長谷川式簡易知能評価スケール】

「長谷川式」と呼ばれるこの検査も、日本で非常によく用いられています。年齢、見当識、視覚性記憶、計算、逆唱など9項目で構成されており、30点満点で20点以下が認知症疑いとなります。MMSEにはある書字や図形模写は、長谷川式には含まれていません。

 やはりスクリーニング検査なので、長谷川式だけで認知症を判断するのは不適切です。

 MMSEも長谷川式も、現代はインターネットで調べればどんな内容かがすぐにわかります。認知機能低下が見られ始めていても、軽症だったりMCI(軽度認知障害)であれば、数値が高くなりがち。繰り返すうちに「学習」してしまうことも。

 認知症かどうかを判断するには、より総合的な判断が必要です。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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