「米ぬか」はアルツハイマー病の治療に役立つのか…医師主導研究がスタート

ぬか漬けの「ぬか床」も原料は米ぬか
ぬか漬けの「ぬか床」も原料は米ぬか

 東京歯科大学市川総合病院では今、ある臨床試験への参加希望者320人を募集している。目的は「米ぬか成分によるアルツハイマー病への治療効果」を確かめること。主任研究者である同病院准教授の宗未来医師(精神科医)に話を聞いた。

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 米ぬかは、米の命ともいわれる胚芽と、それを守る種皮や果皮から成り、玄米の栄養素の90%以上が含まれているともいわれる。

「中でもフェルラ酸という老化の進行を緩やかにする抗酸化作用、抗炎症作用のある成分は認知症で最も多くを占めるアルツハイマー病の進行抑制や治療に役立つことを示唆する研究が複数報告されています」(宗医師=以下同) 

 アルツハイマー病の病理としては、アミロイドベータというタンパク質が脳の神経細胞外にたまることで、神経細胞にダメージを与えるというアミロイド仮説が主流とされている。

 すでにマウスを用いた動物実験では、米ぬか成分を摂取したマウスは、摂取しないマウスと比べて、記憶をつかさどる脳の海馬や大脳皮質といった場所へのアミロイドベータの蓄積が59~73%も減少することが示されている。

 他にも米ぬか成分による「脳画像検査による脳血流量の改善」「アミロイドベータによる脳内の炎症抑制」「アミロイド仮説と並んでアルツハイマー病の原因とされる神経細胞内のタウタンパク量の低下」といった研究も報告されている。

「米ぬか成分の配合サプリメントが草の根で認知症患者に広がっているという話を医師仲間から聞き、私自身も最初は半信半疑だったものの、抗認知症薬を飲まれている認知症患者さんに、参考情報としてお伝えしました。すると試された何人かの患者さんの家族から数カ月から半年でよい感触が得られたと感謝され、それを契機に効果を実感し始めました」

 患者家族からは「進みが遅くなった感じがある」「できなくなっていた家事が、できるようになった」といった感想が報告され、患者本人から「頭のキレがシャキッとしたように思う」といった声が聞かれたこともある。

■世界初の検証

「米ぬか成分の効能を情報発信する医療者が徐々に増え、一部の認知症患者さんの間でも広がりを見せつつある一方で、厳密な医学的検証を通じての認知症患者に対する効果はまだ世界的にも証明されていません。そこで米ぬか成分の治療効果の検証のために、無作為化比較試験を臨床研究法に基づいた“医師主導研究”として行う運びとなったのです」

 無作為化比較試験とは、研究の対象者を2つ以上のグループに無作為に分け、効果を検証すること。効果を公平に比較できるので、信頼性の高い試験とされる。

 また医師主導研究とは、わが国で多い製薬会社の資金援助などで新薬承認といった営利目的に行われる研究とは異なり、新たな科学的知見の検証を目的として研究者自らが発案し、自らの責任において準備から管理を行う研究を目指すものだ。今回の宗医師らの研究では、軽度のアルツハイマー型認知症と診断されている(それ以外の認知症とは診断されていない)、65歳以上85歳以下の男女が対象。

「軽度とは、自分1人で衣類を選んで着替えられたり、自発的にシャワーや入浴が可能なレベルの方を指します」

 抗認知症薬のドネペジルを1日5ミリ、1カ月以上内服できていることも条件。研究中もドネペジルの服用は継続する。ここに米ぬか配合のサプリメントかプラセボがプラスされる。期間は約1年間。

「実は先進国では新たな認知症発症は減少傾向にあり、米国でも65歳以上の新たな発症率は約10年間で24%減少。その理由として食生活を含めた生活習慣(病)の改善が大きいとみられています。近年アルツハイマー病は、『脳の糖尿病』と称されており、栄養学的アプローチは眉唾の民間療法ではなく、新たな認知症治療の希望の星として医学的に期待されているのです。日本の歴史と文化を育んだ米が、認知症治療に寄与できるのではないかと、臨床研究の結果に期待しています」

 薬以外の選択肢が増えるとしたら、喜ばしいことだ。

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