血糖値が急上昇した糖尿病予備軍が急いで受診すべき理由…怖いのは高インスリン血症

「節制すれば元に戻るはず」は間違い。すぐ受診を(C)PIXTA
「節制すれば元に戻るはず」は間違い。すぐ受診を(C)PIXTA

 糖尿病予備群の中には新型コロナによる在宅勤務で糖尿病を発症し、慌てている人もいるのではないか? 日本糖尿病協会療養指導医で「北品川藤クリニック」(東京都品川区)院長の石原藤樹医師に、糖尿病を発症したときに陥りやすい間違いについて聞いた。

 糖尿病とは、膵臓で作られるインスリンと呼ばれるホルモンが不足したり、働きが悪くなったりしたため血液中のブドウ糖が異常に高くなる病気のこと。免疫の異常などにより膵臓の細胞が破壊されてインスリンが作られなくなる「1型糖尿病」と、インスリンは作られていても量が不足したり、その機能がうまく働かなくなり血糖が上がる「2型糖尿病」がある。現在、糖尿病の罹患者は成人男性の4人に1人といわれており、その多くが2型糖尿病である。

「糖尿病を発症した人が起こす一番の間違いは、受診をためらうことです。『節制すれば元に戻るはず』などと軽く考えているうちに、深刻な事態に陥る患者さんは少なくありません。しかし、これは間違いです。普通、正常な人は、空腹時血糖は110(ミリグラム/デシリットル)未満で、食後でも140を超えることはあまりありません。そのため、空腹時血糖値が126、食後で200を超えれば糖尿病と判定されます(診断は複数回の検査で確定)。血糖値がこれを恒常的に超えて大きく上昇したということは間違いなく糖代謝のシステムに問題が起きた、ということであり、新たなステージに入ったということです。すぐに受診し原因を究明し、治療をスタートしなければ病気は一気に進んでしまいます」

 それでも、多くの人は、「やせたら血糖値も戻せるはず」と思い込み、我流で運動したり、食事を制限して血糖を下げようとしてしまう。

「むろん、どんなに血糖値が悪い人でも、インスリンが出なくならない限りは節制により、ある程度血糖値を戻すことも可能です。しかし、それには時間がかかります。怖いのはその間に高インスリン血症になることです」 

 食事で血糖が高くなると膵臓はインスリンを分泌して血糖を下げようとする。しかし、血糖コントロールの悪い人はインスリンを分泌してもその効き目が悪く、血糖値が上がっていく。それでさらにインスリンが上昇するという悪循環が起こる。これが高インスリン血症だ。

「この状態が続くと膵臓が疲弊し、インスリンが作れなくなり、1型糖尿病と同じく食事のたびにインスリン注射をすることになります。そこまでいかなくても血液中にインスリンが過剰に存在するようになると、交感神経が刺激されて高血圧になりやすいうえ、腎臓でのナトリウム排泄機能が損なわれるため、血液に水分が多くとどまるようになり高血圧に拍車がかかります」

■動脈硬化のリスクも高まる

 また、高インスリン血症になると、肥満や脂質代謝異常や尿酸代謝異常にも影響して動脈硬化に進展するとされている。

「日頃から運動する人はインスリンによりブドウ糖が積極的に筋肉に取り込まれますが、運動しない人は内臓脂肪組織の脂肪細胞にブドウ糖や脂肪を取り込んでしまう。そのため高インスリン血症の人はぽっこりお腹になりやすい。さらに高インスリン血症の人は腎尿細管におけるナトリウム再吸収を増加させる一方で、尿酸の排泄を低下させると考えられるため、痛風や結石リスクが高まります。高インスリン血症の人は脂質異常症になりやすいこともわかっています。それは、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が増えて善玉(HDL)コレステロールが減ってしまうからです」

 実際、肝臓は余った血糖で中性脂肪を作り、インスリンは脂肪を分解する働きがある。しかし、インスリンの効き目が悪くなると、インスリンによる脂肪分解の力が弱まり、血管内の脂肪が多くなり、血管の内壁にコレステロールが蓄積して動脈硬化を起こす可能性が高まるという。

 糖尿病の診断治療を拒否したり、消極的になる人の中には「一度薬に頼ったらおしまいだ。二度と元に戻れなくなる」「自分は血糖値が極端に悪いから飲み薬を飛び越えて即インスリン注射を宣告されるのではないか」と不安がる人がいる。本当か?

「誤解です。いまは薬で血糖値を抑えたあと、節制して血糖値が安定すれば、その後は薬なしに生活を送れる場合もあります。また、かつてはインスリン注射をしなければならないレベルでも、最近は組み合わせを工夫することで、飲み薬だけでも対処できるケースもある。また、薬以外にも血糖を抑える科学的根拠のある方法が情報として蓄積されており、糖尿病の治療を行う医師はそのノウハウを身につけています。それを賢く利用するためにも糖尿病あるいはその予備群と診断された人は病院にかかるべきです」

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