Dr.中川 がんサバイバーの知恵

往年のプロ野球選手 毒島章一さんは2年で他界…前立腺がん骨転移の痛みは放射線で9割治る

毒島章一さん(C)共同通信社
毒島章一さん(C)共同通信社

 往年の野球選手の命を奪ったのは、前立腺がんでした。東映(現・日本ハム)で外野手として活躍した毒島章一さんのことです。享年87。家族に見守られての旅立ちは何よりでしょう。

 報道によると、前立腺がんが見つかったのは2年ほど前で、腰を痛めて歩行が苦しくなったといいます。この症状からうかがえるのが前立腺がんの骨転移です。

 前立腺がんは比較的進行が遅く、がんの中では生存率が高く、ステージ1~3は5年生存率が100%。しかし、遠隔転移があるステージ4は65%に下がります(全がん協生存率調査)。

 その転移として多いのが骨です。転移がある前立腺がんでは6~7割。特に治療法のひとつ、ホルモン療法が効かなくなると8割以上。その中では、脊椎や骨盤、肋骨、大腿骨など体の中心付近にある骨に転移しやすいのが特徴です。

 転移の初期はほとんど症状がありません。骨転移が進むと、たとえば脊椎への転移では、中を通る脊髄が圧迫され、脚のしびれや麻痺などが生じ、それがひどくなると、歩けなくなることがあるのです。

 骨転移がある部位は骨がもろく、健康なら折れない程度のわずかな力で骨折しやすい。これを病的骨折といいます。

 とても厄介な症状ですが、骨転移には放射線治療が効果的です。骨転移による痛みは、放射線照射で8~9割は改善。麻痺もかなりよくなり、歩けるようになります。

 ただし、このような効果を得るには、発症してすぐに照射することが重要で、麻痺などが発症してから48時間以内です。それより遅くなると、回復できなくなります。脚のしびれや麻痺などの違和感があれば、すぐに医師に相談を。照射は1回のみで、東大病院の場合、相談を受けたらその日に照射しています。

 転移を起こす前立腺がんは悪性度が高く、進行が速い。全身の骨にがんが広がると、白血球や赤血球、血小板をつくる骨髄の機能が低下。貧血が進んで、血小板が減り、出血で亡くなることがよくあります。

 こうした事態を免れるためにも、放射線治療が大切。前立腺がんがあって腰痛が続くようなら、前立腺がんのマーカーであるPSAを一度調べるとよいでしょう。

 前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けます。同じように乳がんも、女性ホルモンの影響を受けるため、骨転移が起こりやすい。乳がんの女性も骨転移は要注意です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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