がんと誤診されやすい「IgG4関連疾患」とはどんな病気なのか

もともとは膵臓の病気として見つかった
もともとは膵臓の病気として見つかった

 都立駒込病院で、世界で初めてとなる診療専門施設「IgG4関連疾患センター」が今年4月に立ち上がった。IgG4関連疾患は、近年、国際的にも注目されている疾患概念だ。センター長の神澤輝実医師(都立駒込病院名誉院長)に話を聞いた。

「IgG4関連疾患」と聞いて、すぐにどういったものかを頭に浮かべられる人は、一般人ではほぼいないだろう。しかし、2人に1人ががんになるといわれる時代。私たちも、知っておいた方がいい疾患だ。

「医師の間では少しずつ認知されてきているとはいえ、がんと間違えられ、切除されるケースが少なくないのです」(神澤院長=以下同)

 IgG4関連疾患は、免疫タンパク質の一種、IgG4を作る細胞やリンパ球が異常に増えて炎症が生じ、腫瘤ができる疾患だ。異常に増える理由はわかっていない。

 腫瘤はさまざまな臓器にできる。よくできるのは、膵臓、胆管、涙腺、唾液腺、リンパ節、腎臓。複数箇所に同時にできることもあれば、時間差でできることもある。

「がんとは違い、IgG4関連疾患の腫瘤は良性です。しかし、炎症や腫瘤の肥大化で臓器が閉塞・圧迫され、機能不全に陥り、重篤な合併症を伴うことがあるのです」

 腫瘤ができる場所によって、何が起こるかが異なる。膵臓に腫瘤ができれば黄疸や腹痛、糖尿病の急激な悪化。胆管の腫瘤も黄疸を招く。涙腺の腫瘤では、まぶたが腫れ、視神経を圧迫し、視力に問題が生じることもある。腎臓にできれば、繰り返しの炎症で腎機能障害のリスクが高まる。

「できる場所によっては命に関わる。後遺症が残ることもある。早急に発見して、治療を行わなければなりません。ステロイドの投与が基本となります」

■疑うべき3つのポイント

 今回、神澤医師が「IgG4関連疾患センター」を立ち上げたのは、この疾患の診断に難渋するケースが少なからずあるからだ。

「画像検査で腫瘤を発見すると、がんとの鑑別診断のために組織を取り生検を行います。しかし、膵臓や胆管など、組織を取りづらい臓器に腫瘤ができると生検が難しい」

 IgG4関連疾患ではIgG4の数値が上昇するが、IgG4関連疾患の10~20%は上昇しない。

 一方で、膵臓がんや胆管がんの約10%は、IgG4関連疾患ではなくてもIgG4の数値が上昇する。つまり、IgG4の数値も決め手にならない。

 さらに、治療が困難なケースもある。前述のように、IgG4関連疾患の治療はステロイドの投与。大半の患者はこれでIgG4関連疾患による症状が消える。ところが、ステロイドの減量や中止で再燃する人がいるのだ。そういう患者に対しては、3年ほどステロイドを少量投与する。慎重に経過を観察し、状況に応じて、ステロイドの継続投与の有無を判断しなくてはならない。

「複数の臓器にまたがる疾患のため、それぞれの臓器の専門医が経験をもとに、組織横断的に治療に当たっていかなくてはなりません。スペシャリストをつくるには、専門の診療センターが必要と考え、立ち上げに至りました」

 IgG4関連疾患は、がんと間違われやすい。がんの疑いを告げられ、しかし次の3点に該当するなら、IgG4関連疾患の可能性も考え、IgG4関連疾患センターへの紹介状を主治医に書いてもらった方がいい。

 まず、がんと診断されたが、「腫瘍マーカーが高くない」あるいは「生検でがん細胞が出てこない」。次に、膵臓がんと診断されたが、典型的な膵臓がんの画像とはやや違う。さらに、臓器の腫瘤に加え、まぶたの腫れがある。

 頭に入れておこう。

■発見の経緯 IgG4関連疾患は、もともと膵臓の病気として見つかった。1995年、東京女子医大が「自己免疫性膵炎」の概念を提唱。2001年に信州大学がIgG4との関連を発見し、03年に神澤医師が新たな全身疾患としてIgG4関連疾患の概念を世界に発表した。

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