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【ニューモシスチス肺炎】かつて「カリニ肺炎」と呼ばれていたカビによる日和見感染症

写真はイメージ
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「ニューモシスチス肺炎」という病名を聞いたことがあるでしょうか? 舌を噛みそうな名前ですよね。この病気は「Pneumocystis jirovecii」という真菌(カビ)によって引き起こされる肺炎なのですが、耳にしたことがないという方が多いはずです。

 かつての呼び名である「カリニ肺炎」の方が有名かもしれません。以前は「Pneumocystis carinii」による肺炎とされていたためそう呼ばれていたのですが、ヒトで肺炎を起こすニューモシスチスは異なる種類(Pneumocystis jirovecii)であることが判明し、呼び名が変わったのです。

 ニューモシスチス肺炎は、正常な免疫能力を持つ場合、発症することはまれで、ステロイドの使用、エイズ、悪性腫瘍など免疫低下時に発症する、日和見感染症のひとつとされています。「カリニ肺炎」と呼ばれていた頃、エイズの患者さんに発症する致死的な肺炎として有名になりました。

 ニューモシスチスは細菌ではないため、一般的な抗生物質は無効です。最初に選択されるのは「ST合剤」という抗菌薬になります。ST合剤はサルファ剤であるスルファメトキサゾールとトリメトプリムという抗菌薬を5対1の比率で配合した合剤です。さまざまな副作用と薬物間相互作用の多さといった弱点があるため、ペニシリンなどの抗生物質の開発とともに使用頻度は少なくなりました。しかし、サルファ剤は人類が最初に手にした細菌感染症の治療薬(抗菌薬)で、ペニシリンなどの効き目が悪くなった耐性菌にも効果を示すことがあり、今でも重要な医薬品のひとつです。

 ST合剤の副作用としては、嘔吐や下痢といった胃腸障害、皮疹のほかに、血中のカリウムの濃度が上がってしまう高カリウム血症、血球減少などが知られています。

 また薬物相互作用として、糖尿病薬の一部、ワルファリン、フェニトイン、ジゴキシンなどの薬の作用を増強し、副作用や中毒を引き起こすケースがあるため、飲み合わせには十分注意して服用する必要があります。薬の飲み合わせチェックはかかりつけの薬剤師に確認するとよいでしょう。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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