今回はちょっと番外編に近い内容になりますが、思いもよらぬところから発見されたクスリのエピソードを紹介します。高齢の方はもしかしたらご存じの話かもしれませんし、そういったクスリを現在進行形で使っているという方もいらっしゃるかもしれません。興味深い話だと思いますので、気楽に読んでいただけるとうれしいです。
こういった話をするときに真っ先に思い浮かぶのが、抗菌薬の「ペニシリン」です。ペニシリンの発見は、まさに偶然と言えるものでした。1928年、ある細菌学者が実験でブドウ球菌という細菌を培養しようとしたところ、その培地にアオカビが混入してしまいました。その結果、ブドウ球菌とともにアオカビも増殖したのですが、どういうわけかアオカビの周りにだけブドウ球菌が増殖していなかったのです。
細菌学者は「これはアオカビからブドウ球菌を増殖させない物質が出ているのではないか?」と考え、アオカビからの抽出物にも同様の作用があることを発見しました。そして、アオカビの学名である「Penicillium」から「ペニシリン」と名付けました。現在は他の抗菌薬もたくさん使われていますが、ペニシリンの発見は現在の抗菌薬治療の礎となっており、重要なものであったと言えます。
クスリを創り出す際には、その候補物質となるものを探し出すことから始まる場合がほとんどです。多くは天然物(植物、動物、鉱物など)から探すのですが、なかなかうまくいかないこともあります。あるクスリの候補物質も同様で、研究者は世界中のたくさんの天然物を試しましたが、探し出すことができませんでした。ダメもと(やけくそ?)で、研究施設の裏の土を取ってきて抽出したところ、なんとそこから候補物質が見つかり、現在も臨床で使われている重要なクスリになったというエピソードもあります。
他にも、研究者の「勘」がクスリの発見につながるケースもあります。昆虫に寄生する菌があるのですが、私がお世話になったある教授は、「昆虫も菌に侵食されたくないから免疫機能を発揮するだろう。逆に菌は昆虫に寄生したいわけだから、菌はその免疫を抑える物質を出しているかもしれない。もしそうだとしたら、これまでにない効き方の免疫抑制薬になるのではないか」と考え、最終的にクスリとなる物質を見つけ出しました。
クスリが世の中に出てきて使われるまでには、膨大な労力と時間、お金が必要となります。場合によっては、偶然や勘といったものが必要です。ご自身が使っているクスリの歴史を調べてみるのも面白いかもしれませんね。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方