Dr.中川 がんサバイバーの知恵

AIががん診断の主役になる…胃も大腸も精度は専門医並み

CT検査で組織のタイプまでわかる日も(C)PIXTA
CT検査で組織のタイプまでわかる日も(C)PIXTA

 いろいろな分野でAIの活用が進んでいます。医療もしかりです。近い将来、医療現場でも欠かせない存在になります。今回は、医療とAIの関わりについてです。

 国立がん研究センター東病院と理化学研究所の共同研究チームは今年6月、早期の胃がんを自動診断するAIを確立しました。

 消化器内視鏡の専門医が今回のAIに早期胃がんの病変領域を正確に判定したがん画像150枚とがんではない正常画像150枚を読み込んで学習。さらに元データを拡大・縮小、反転、色変換などを加えて113万枚に増やして、早期胃がんの表面や色の特徴などをディープラーニングさせています。さらに診断したい病変のエリアを1600のブロックに分割。ブロックごとでの病変の存在確率を予測します。

 こうして構築されたAIを、別の137症例(がん画像462枚、正常画像396枚)で評価。その結果、AIは、がんでない画像を正しく正常と判断するより、がんの画像を正しくがんであると判断することに優れていることが分かりました。その精度は専門医と同等で、早期胃がんの領域予測で、AIが専門医に迫る精度を示したのはこの研究が初めてです。

 AIのメリットは、人間と違ってケアレスミスがなく、見落としがありません。胃がんの中で難治性のスキルス性は表面がわずかに陥凹(かんおう)して粘膜の下に浸潤するため、隆起する病変に比べると、内視鏡での発見が難しいのが特徴です。

 このAIは、陥凹型についても専門医の領域予測と重なり合った症例が紹介されていました。“教師画像”の蓄積で精度が上がれば、今後、スキルス性の早期発見に力を発揮するでしょう。

 大腸がんでも、専門医に匹敵する精度のAIが誕生しています。画像データは内視鏡に限らないので、ある患者の画像を含む全データを利用したAI診断が進む日は近いかもしれません。

 放射線分野でも同様です。私が所属する東大病院では先日、肺がんの疑いでX線撮影が行われましたが、AIは肺がんを否定。シロ判定でした。その判断は、X線→CTによる学習がベースになっています。

 来月、横浜で開催される国際腫瘍学会議「ASCO ブレークスルー」は最先端のがん治療が議論される場で、そのテーマの一つが、放射線とAIを組み合わせたラジオミクスです。通常400種以上に及ぶ大規模な医用画像データを網羅的に解析し、予後の予測などを行う新しい研究分野。これが発達すると、たとえば肺がんの画像のみで病理タイプを予測できるようになります。

 ただし、がん治療は複雑で、新しい医療技術などの評価を生存期間のみに求めることができません。診断分野ではAIが定着するでしょうが、治療全体の管理では専門医の関与が不可欠です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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