さすがに今、熱中症対策を行っていない人はいないだろう。それでも熱中症で救急搬送される人がいるということは、対策が間違っているのかもしれない。
記者の周辺でも熱中症が続出している。
「スポーツドリンクを片手にコンサートへ。気がついたら、くらくらして立ち上がれなくなっていた」(30代女性)、「プロテイン入りドリンクを飲んでいたのに、運動中に熱中症に」(20代男性)などだ。
「熱中症は、脱水症と異常高体温という病態から成り立っており、脱水症対策が、すなわち熱中症対策になります。しかし、間違った水分補給をしている方が少なくない」
こう指摘するのは、論理的かつ科学的根拠に基づいた「飲水学」を提唱している神奈川・済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜医師。正しい水分補給の知識は次の通りだ。
①食事からが基本
「バランスの取れた食事では、1食につき500ミリリットルほどの水分を摂取できます。食事からの水分はゆっくり吸収され、体内に保持されやすい。それに、熱中症対策に有効なビタミンやミネラルも同時に摂取できる。食事をしっかり取って暑さ対策さえしていれば、そう簡単には熱中症になりません。言い換えれば、食事を抜くと、それだけで熱中症になるリスクがあるのです」
②夏は水&お茶に加えて果物もプラス
「日常生活では水やお茶を。そして夏野菜や果物も食べると、なお良し。夏野菜や果物が含む水分量はかなり多いです」
③スポーツドリンクを飲むなら成分チェック
日本ではスポーツドリンクの成分に明確な基準がなく、含有成分はさまざま。スポーツ後に熱中症対策のために飲む場合、ナトリウムイオン濃度が高く、糖濃度が低く、浸透圧が低い経口補水液に近いものが望ましいが、その条件を満たすものは意外と少ない。
「むしろエネルギー補給を目的としているので、糖濃度が高く、水分補給の速度が遅い。脱水症を伴う熱中症がないときなら糖濃度が高いスポーツドリンクでもいいですが、体調に異変があるなら経口補水液を。日常的に飲むものとしては糖濃度が高すぎるので、お勧めしません」
④カフェイン入り飲料も水分補給になる
「『利尿作用があるのでカフェイン入り飲料は水分補給にならない』とよくいわれますが、カフェインの利尿作用の感受性は人それぞれで、耐性もある。最近の研究では、健常者ではカフェイン入り飲料が、必要水分量補給に有用とされています」
熱中症対策の「正しい水分補給法」 絶対に押さえたい8つのポイント
⑤熱中症のときは絶対NGの飲料がある
カフェインは、平時はOKだが、熱中症を起こしているときにはNG。
「さらに絶対に飲んではいけないのは、強い利尿作用と体温上昇作用のあるアルコール。体温を上昇させる牛乳やプロテイン入りドリンクなどのアミノ酸含有飲料もダメ。大量の真水も水中毒を起こす恐れがあります。熱中症のときは経口補水液がベストです」
⑥寝る前に水分補給
「就寝中も、汗や不感蒸泄(皮膚や呼気から排泄される水分)で水分は失われます。一方で、就寝中は当然ながら水分補給ができない。夏場の就寝中に脱水症状に至り、早朝に心筋梗塞や脳梗塞を起こすケースは珍しくありません。就寝前には、ぜひ水分補給をしてください」
トイレに行きたくならないように、150ミリリットルの少量の水分を、常温かぬるめの温度で5分ほどかけてゆっくり飲む。それでも尿意をもよおすなら、150ミリリットル→100ミリリットル→50ミリリットルと量を減らす。
「50ミリリットルでも尿意をもよおすなら水分摂取と無関係。泌尿器科を受診してください」
⑦摂取のタイミングは年代で変わる
「健康な成人は喉が渇く前や渇いたらすぐに摂取を。小児は体内水分量が体重の8割と多く、水分摂取が常に必要なので自由にいつでも摂取。高齢者は体重の5割ほどまで水分が減少しており、加齢や持病で喉の渇きがわかりにくい。そのため、時間を決めて水分摂取をしてください」
⑧一気飲みをしない
「コップ1杯程度なら一気飲みでも相当量の水分が体内に残ります。しかし500ミリリットルのペットボトル程度の水を一気飲みすると、せっかく取った水分が尿として体外に出てしまいます」
WHO(世界保健機関)が推奨する水分補給回数は、1日8回以上。しかし、その日の活動量や体調などによって必要とされる水分量は異なるので、フレキシブルに対応することが肝心だ。