承認されたアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」ってどんな薬?

岩坪威教授
岩坪威教授(C)日刊ゲンダイ

 認知症で最も多くを占めるのがアルツハイマー病だ。厚労省は21日、薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会を開き、世界で注目されているアルツハイマー病治療の新薬の承認を決定した。日本認知症学会理事長で東大大学院医学系研究科神経病理学分野の岩坪威教授に話を聞いた。

 新薬とは、日本の製薬会社「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同で開発を進めてきた「レカネマブ」だ。アメリカでは7月上旬にアルツハイマー病の治療薬として承認されている。

「レカネマブは、認知機能の低下を抑え、病気の進行を緩やかにする初めての薬です。臨床試験では1年半の投与で、プラセボ(偽薬)患者と比較して、認知機能低下が27%抑えられました」

 アルツハイマー病の始まりは、症状が出てくるはるか前に遡る。

「まず最初に、本来は短時間で消失するはずのタンパク質『アミロイドβ』が何らかの原因で蓄積し、それらがくっつきあってアミロイド斑(老人斑)という塊ができます」

 これによって引き起こされるのが、中枢神経細胞の中に存在するタンパク質「タウタンパク質」の蓄積、凝集だ。それとともに神経変性が起こり、神経細胞が死滅。アルツハイマー病発症に至る。ざっくり示すと「アミロイドβ蓄積・凝集↓タウタンパク質蓄積・凝集↓神経細胞死滅↓アルツハイマー病発症」。これが20~30年かけて、脳の中で起こるのだ。 

 アルツハイマー病の薬は長らく「神経細胞に足りなくなった物質を補う薬」だけだった。アルツハイマー病発症のいわば“下流”に働きかける薬で、症状緩和は期待できるものの、病気の進行は止められず、効果のある期間も限られていた。

 一方、レカネマブはアミロイド斑ができる過程で、たまったアミロイドβを除去する薬だ。“上流”に働きかけ、アルツハイマー病発症の流れを食い止める。ヒト対象の研究では、脳内の約60%のアミロイドβが減少したという結果が出ている。投与のタイミング次第で、認知症を発症しないまま寿命を全うできる可能性も将来的には期待できる。

 実はレカネマブに先駆けて、世界の注目を集めた薬がある。アデュカヌマブだ。

「アミロイド斑を除去する作用があり、レカネマブ同様アルツハイマーの根本的原因に働きかける。しかし大規模臨床試験の中間解析で効果なしとの予測が出て、2019年には開発中止。その後、追加データで解析し直したところ、認知機能低下抑制効果があるとなりましたが、最終的にはアメリカで21年に条件付き承認、日本では承認見送り、継続審議となり、現在は新たな臨床試験の結果を待っているところです」

 条件付き承認とは、仮の承認のこと。正式な承認を得るには、新しい臨床試験で効果を証明しなければならない。

 岩坪教授は、レカネマブがアメリカで正式承認、日本でも承認間近となったポイントは次の3つにあると説明する。

 まず、試験対象者を「早期アルツハイマー病」に限ったこと。

「過去の臨床試験で、アルツハイマー病は神経細胞の死滅が進んでからアミロイドを除く薬を投与するのでは遅く、一刻も早い方がいいことがわかっています。とはいえ、何らかの症状がないと受診できない。レカネマブでは認知症に至らないMCI(軽度認知障害)と軽症の認知症を対象に臨床試験を行ったことで、今回の結果が出たと考えられます」

 臨床試験の対象者でもアルツハイマー病以外の認知症が交じっていることが少なくない。それを除外できるPET検査でアルツハイマー病に限定できたことも大きい。

 次に、レカネマブの投与で懸念されていた副作用への対応が定まり、安全に臨床試験を行えた。

「投与量を増やせれば臨床効果も得られるが、副作用のリスクも大きくなる。副作用のリスクを最小限に、しかし可能な範囲の高用量を用いることが可能になりました」

 さらにアミロイドβを除去するにしても、より毒性が高いとされるプロトフィブリルという状態のアミロイドβを除去できる抗体を開発できた。

 明日もアルツハイマー病治療薬の最新情報をお届けする。

関連記事