がんと向き合い生きていく

自分ひとりではない…乳がんの女性は「患者サロン」で元気をもらった

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 厳しい残暑が続いています。

 新型コロナは5類に移行されましたが、ウイルス自体が変わったわけではありません。暑いせいもあってか、街ではマスクをしていない人が多くなり、駅前のある大型店舗では入り口の消毒用アルコールを置かなくなりました。

 テレビでの感染者数の報道そのものが減り、流行の実態が分かりにくくなったのですが、実際の流行は減っていない感じで、そしてまた新しいタイプのウイルスが登場したと報道されています。

 先日、某病院の外来に行くと、さすがに病院職員もほとんどの患者もマスクを着けていました。

 先週、乳がんと診断されたAさん(女性=45歳)のお話です。

 その時、担当医からはこんな説明がありました。

「がんはまだ小さくて転移はなさそうです。手術で完全に取り切れ、傷は小さくて済むと思います。しかし、その後、内服薬を5年間は飲み続ける必要があります。セカンドオピニオンとして、他の病院の意見を聞きたければ、来週には資料を用意します」

 Aさんは、がんと告げられて頭が真っ白になり、言われるまま「はい」と答え、翌週にセカンドオピニオンの資料をもらうことになりました。

 先日、Aさんはその資料を受け取るため病院に行きました。担当医の説明で納得できてはいるのですが、他の病院の意見も聞きたい気もしています。ネットで調べて、他の病院のセカンドオピニオンの予約をしました。

 手術で入院の時は、5歳の子供を母にお願いするか? 会社にはどう話すか? 説明してくれた医師が担当医になるのか?

 考えるほど、いろいろ心配は増えてきました。

 いまこの病院で同じ病気で治療を受けている方はどう思っているのか?この病院でのあの医師の評判はどうなのか?

■ほかの病院の患者でも相談できる

 先週、病院から帰る時に「がん相談支援センター」というものが目につきました。Aさんは病院の総合案内の窓口で、どんな相談ができるのかを聞いてみました。センターには、看護師や医療ソーシャルワーカーなどの専門相談員が常駐していて、がんに関する治療法の一般的な情報、療養生活、就労に関することなど、面談あるいは電話でも、どんな相談でも対応してくれるとのことです。しかも、その病院で治療している患者、家族だけでなく、他の病院で治療を受けている方でもよいといいます。

 セカンドオピニオンの資料をもらった後、思い切ってがん相談支援センターを訪ねてみました。質問したいことを箇条書きにしたメモを持参し、相談員の方から説明してもらっているうちに、同じ乳がん経験者の意見も聞けるということが分かりました。ピアサポートといって、同じ経験を持つ仲間(ピアサポーター)が、自身の経験を生かして対応してくれるというのです。

 そして、「患者サロン」という集まりがあることも教えてもらいました。がん患者や経験者など、同じ立場の人が自由に集い、がんについて気軽に話し合える交流の場とのことです。患者サロンは、主にがん拠点病院などで設置してあり、患者が中心となって、交流会や勉強会なども開催しているようでした。サロンの担当部署はがん相談支援センターのようですが、主体はあくまで患者なのだそうです。

 さっそく、病院に設置されている患者サロンの入り口まで行ってみると、がん情報のパンフレットが置いてありました。さらに、そこにいた患者とおぼしき方に話しかけてみると、「最近はコロナのせいで集まる方が少ないようだけど、いろんな情報交換ができるんですよ」と教えてくれました。患者は自分ひとりではない。いろいろ相談できるのだ。少し元気をもらって、Aさんは病院を後にしました。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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