感染症別 正しいクスリの使い方

【フィラリア症】日本では根絶したが全世界では1億人が感染

写真はイメージ
写真はイメージ

「フィラリア症」といえば犬の感染症で有名です。糸状虫(フィラリア)によって引き起こされる寄生虫の病気で、犬糸状虫は犬と蚊の体を行ったり来たりしながら増殖します。

 感染した犬を蚊が吸血することで、蚊の体内にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が入ります。この蚊が別の犬を吸血するときに、刺された犬の体内にフィラリアの幼虫が入り込み、感染が成立するのです。

 0.3ミリほどの小さなミクロフィラリアは、半年後には18~30センチの成虫に成長し、心臓や血管などに寄生しながら、たくさんの幼虫を産みます。時には致死的な転帰をたどることもあるため、注意が必要な疾患です。現在は、定期的な予防薬の服用により予防することも可能ですから、とくに蚊の発生する季節には、愛犬には予防薬を服用させるとよいでしょう。

 あまり知られていませんが、人のフィラリア症も存在します。人に感染する糸状虫もやはり蚊によって媒介され、蚊に刺されることで人への感染が成立します。

 フィラリア症を発症すると、急性期には発熱や悪寒、筋肉痛を生じることが多く、慢性期にはリンパ管の流れが障害されて陰嚢が巨大に腫れるケース(陰嚢水腫)もあります。また、皮下組織が肥大して、外観が象の足のようになること(象皮症)も知られています。

 古くは、西郷隆盛がフィラリア症による陰嚢水腫を発症していたことは有名です。馬にまたがることができず、戦場をかごで移動したり、西南戦争後、首のない死体検視にあたって陰嚢水腫の存在から西郷隆盛本人と判定されたと伝わっています。

 人のフィラリア症は熱帯・亜熱帯地域ではいまだ見られる感染症で、全世界で1億人以上の人が感染していると推定されています。日本では1988年の沖縄県での根絶宣言をもって、「世界で初めてフィラリアを根絶した国」となりました。実際、日本では発症者は見られなくなったのですが、地域によっては注意が必要な感染症です。海外の該当地域に旅行に行く際にはしっかり対策しましょう。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

関連記事