どれだけ寝てもひどく眠くなる人は…「特発性過眠症」かもしれない

過剰な眠気から社会生活が難しくなる人も…
過剰な眠気から社会生活が難しくなる人も…

 寝ても寝ても目が冴えず、日中にボーッとした状態が続く「特発性過眠症」という病気がある。過剰な眠気から、社会生活が難しくなる人も少なくない。東京都医学総合研究所睡眠プロジェクトの宮川卓氏と本多真氏に聞いた。

 過眠症は、睡眠を妨げる病気や睡眠不足がないのに日中に強い眠気が生じる睡眠障害で、主に「ナルコレプシー」「特発性過眠症」「反復性過眠症(クライネ-レビン症候群)」の3つを指す。

 特発性過眠症の典型例は、10時間以上睡眠を取っても寝覚めが非常に悪く、日中も強い眠気が続くのが特徴だ。典型例の有病率は10万人に数人とされる。

「突然の眠気で場所を問わずに居眠りしてしまうナルコレプシーと違い、特発性過眠症の人は試験や会議といった重要な場面では目を開けていられます。ただ、日中もボーッとした状態が続いて頭が冴える時間が少ないです。特に朝の起床時や昼寝から目覚めた後は記憶がないままに行動する『睡眠酩酊』が見られたり、立ちくらみや冷え性といった自律神経症状も多く生じます」(本多氏)

 1日の睡眠時間が16時間を超えるような重症例では、日常・社会生活が困難になる。患者の多くは10代で発症するため、本人が目標や夢の実現に向かって取り組もうとしても、思うように登校できなかったり使える時間が限られて学業に支障を来す。周囲だけでなく本人も病気に気付かず、努力が足りないだけだと考えがちで、うつ状態になりやすいという。

 社会人の場合も、ミスが続いて業務に支障を来し退職を余儀なくされるケースが少なくない。

「過眠症は病気としての認識が浸透していないため、生活が不規則で『怠けているだけ』とみなされやすく、悩みを抱えたまま過ごしている人が少なくないのです」(本多氏)

 特発性過眠症は原因が特定されておらず、根本的な治療法がない。対症療法として、日中の眠気を軽減させる「中枢神経刺激薬」が処方されているが、動悸、下痢、感覚過敏といった副作用のリスクがある上に、約半数の人は効果が得られていないのが現状だ。

■発症に関わる遺伝子を世界で初めて発見

 そんな中、宮川氏と本多氏らが行った研究で、特発性過眠症の発症に関わる遺伝子が世界で初めて発見されたと、昨年4月に英国科学雑誌で発表された。

「特発性過眠症と診断された598人のDNAを解析したところ、健常者9826人と比較して睡眠と覚醒を調整する『オレキシン』の基となる前駆体の遺伝子に特定の変異が見られる確率が高かったのです」(宮川氏)

 オレキシン前駆体は、酵素によってオレキシンAとオレキシンBの2つに切断されて脳内に作用する。今回の研究では、この切断部分に変異が見られる割合が特発性過眠症では1.67%、健常者では0.32%と、5倍の差が見られた。さらに、特発性過眠症の患者の中でも変異がある人は、ない人に比べて重症化の傾向が高いことも明らかになったという。

 今回の研究結果から、現在ナルコレプシーの治療薬として開発が進められている「オレキシン作動薬」が、特発性過眠症に対して有効かもしれないと期待される。

「オレキシン前駆体に変異が生じている人であれば、オレキシン作動薬が特に効果を示すかもしれない。まずはナルコレプシーが対象ですが、治験で有効性や安全性が確認されれば、近い未来、特発性過眠症の方にも処方できる日が来るかもしれません」(宮川氏)

 治療薬の実用化に期待しつつ、日頃から生活改善によって日中に眠気などを抑えることも重要だ。

 特発性過眠症の人は1日の大半を睡眠に費やすため、起きていられる間に無理をして夜更かししがちになる。また睡眠時間が12時間を超える人は、活動開始が夕方になり光を浴びるのが体内時計を後退させる時間帯になる場合が多い。そのため「睡眠相後退症候群」になりやすい。

「過眠症の眠気に寝不足の眠気が重なると、重症となり薬の効果も乏しくなります。朝の寝覚めの悪さを軽減させる作用がある薬の併用も試みつつ、睡眠リズムを整えて夜間睡眠時間を確保することが大切です。特発性過眠症の人が仮眠をとる際は、深睡眠に入って覚醒困難が生じる前まで、布団で横にならずに15~20分を目安に休むといいでしょう」(本多氏)

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