患者に聞け

MCI(軽度認知障害)(2)日記を書くために辞書を引く毎日

料理教室は認知症進行の予防に
料理教室は認知症進行の予防に(C)PIXTA

 神奈川県横浜市内に住む藤原達夫さん(仮名・65歳、大手企業嘱託社員)は3年前、市内にある総合病院の脳神経外科で「MCI」と診断された。

 担当医からは「MCIは、頻繁に置き忘れ、捜しものをする。同じ話、同じ質問を繰り返す。慣れた作業に時間がかかる。趣味や人付き合いもおっくうになるといった症状があります」と説明された。

 藤原さんが認知機能障害を自覚したきっかけは、パソコンを起動させるための暗証番号が思い出せなくなったことだった。また、自転車で自宅から最寄りの駅に向かう途中、通い慣れた道順を間違う失敗もたびたびあった。

「この3年間で認知症が徐々に進行していると体感しています」(藤原さん)

 用心のために、銀行口座の暗証番号や自宅の住所や電話番号の「記憶」を、手帳に「記録」として残した。

 長女夫婦や近所に住む仲のいい友人にも、「MCI」と診断されたことを打ち明け、思い切って嘱託先の会社にも知らせたという。

 医師から、認知症進行の予防対策として、いろいろなアドバイスを受けた。そのひとつが料理教室だった。週に1回足を運び、仲間と会話を楽しみ、包丁を握った。

 自宅の近所には広い山下公園がある。週に何回か、ゆっくりと自転車を走らせ、うっすらと汗をかくくらいのサイクリングも始めた。

 また就寝前、一日の出来事を記録する日記をつけ、忘れた漢字はひらがなで書くのではなく、面倒でも辞書を開く習慣を身に付けた。

 認知症予備群と診断されて3年。藤原さんは、「認知症は防ぎようがありません。進行を少しでも抑える努力をしていますが、家族には迷惑をかけたくない。トイレの場所が分からなくなるほど症状が進行したら、施設に入れてほしいと妻に伝えておきました」と言う。

 横顔には最後はひとりで生きていく覚悟が見て取れた。(この項おわり)

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