老親・家族 在宅での看取り方

「特別訪問看護指示書」の提出で週4回以上の訪問看護を受けられるようになる

原則に縛られない柔軟な対応が求められている
原則に縛られない柔軟な対応が求められている

 当院で在宅医療を利用する患者さんは「介護保険」か「医療保険」のいずれかを利用されています。

 介護保険は、いわゆるヘルパーさんによる排泄の介助や訪問入浴など。医療行為には該当しないが、生活において重要な活動を補えるサービスを割安で受けることができます。

 主に65歳以上の高齢者が利用可能。ただし40~64歳でも、関節リウマチ、認知症などの特定疾病に該当し、要支援・要介護認定を受けた場合、同様の扱いとなります。

 一方、医療保険は、病院などで治療が必要なときに利用する保険です。

 その患者さんは卵巣がんを患う53歳の女性の方でした。

 短い距離であれば伝い歩きができますが、長い距離は車いすを利用しなければならず、日常生活動作(ADL)が高いとは言えない状況。

 これまでご自身の貯金を取り崩しながら通院治療してこられましたが、通院が難しくなったことから在宅医療を開始。

 卵巣がんは末期ではなく、53歳という年齢もあって介護保険は適用されず、医療保険を利用。自己負担額は、この女性の場合、4万円以下となりました。

 病気で仕事ができない状況で4万円を払い続けるのは精神的に負担を感じる額ですが、ご自身にとって入院よりははるかにリーズナブルな選択だったのでしょう。

 それでもやはり、いつまで金銭的に持つかといった不安で心労を募らせていっているご様子。介護保険は使えなくとも訪問看護サービスを十分に活用してもらうため、「特別訪問看護指示書」を出すことにしました。

 医師が訪問看護の必要性を判断し、この「指示書」を出せば週に4日以上の訪問が可能となり、通常より頻繁な訪問看護を受けることができるようになります。

 それによって患者さんは毎日訪問看護サービスを受け、医療用麻薬の管理や衛生管理を受けられるようになりました。その後、生活保護の申請が通ったことから、医療費の負担はなくなりました。

 原則に縛られない柔軟な対応が最後のとりでである在宅医療に求められています。制度の網から漏れそうな患者さんを救いあげることも、在宅医療の大切な仕事だと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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