老親・家族 在宅での看取り方

慢性腎臓病の50歳男性「墓参りで死んだ両親に会ってきた。早くそっちに行きたい」

ギリギリまで食べたいものを食べ、喫煙も…(写真はイメージ)
ギリギリまで食べたいものを食べ、喫煙も…(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

「ばい菌が入ったら最悪足を切らなきゃいけないって言われたんだよね」

 形成外科病院に通院しながら、私たちのところで在宅医療を開始された50歳になる1人暮らしの患者さんがいました。

 その方は糖尿病、壊死性腸炎、慢性腎臓病を患っていました。慢性腎臓病は、6段階あるステージのうち、最も病状の重いG5D。

 もともと実家が地方の旧家で地主という裕福な生まれの方で、後に料理人になってからも飲食店を3軒も経営されていましたが、すでに居抜きで人に譲り渡し、病気療養をされていたのでした。

「ご実家はどうでしたか?」(私)

「楽しかった。帰った時に血糖値がめっちゃよかったよ」(患者)

「今日疲れてます?」(私)

「700キロの移動は疲れるね」(患者)

「みんなと会えた?」(私)

「お墓参りで死んだ両親に会ってきましたよ。早くそっち行きたいっていって」(患者)

 まだ体が動くうちにと郷里の墓参りも済ませ、心の整理ができたせいか、心なしか穏やかなご様子。とにかく食べることが大好きな方で、コーラやポテトチップス、たこ焼きといった、病院では絶対に食べることのかなわない高カロリーで高糖質の食べ物も、食べたい時に好きなだけ食べ、喫煙もされていました。そのため肥満気味で体重が90キロ前後と大柄でしたが、日常生活動作(ADL)は落ちておらず、日常生活を送るのに支障はありませんでした。

 ただ、糖尿病と慢性腎臓病で内臓全体に負荷がかかっている状態に変わりはなく、血管が狭くなったり詰まったりして、足に流れる血液が不足。下肢閉塞性動脈硬化症を起こしており、傷やタコの治りが悪く、当院では内科的な診療に加え、爪切りや、皮膚潰瘍に対する薬の処方など、フットケアが欠かせませんでした。

 足に血豆ができた時のこと。

「ちょっと診せてください。前回も同じ場所にできて、再発した感じですね。処置しますね」(私)

 まずは滅菌蒸留水で洗浄してから、褥瘡(床ずれ)や皮膚潰瘍などの治療に用いられる薬(フィブラストスプレー)を塗布。そして患部の雑菌を殺し、傷の治りを早くする軟膏(イソジンシュガー)を塗り、ガーゼとパッドで保護します。

 適宜に訪問看護と連絡を取り、内部から表面にしみ出てくる滲出液がある時は、保護されているガーゼ交換時の写メを送ってもらって様子を確認するなど、細かいケアに努めました。

 当院介入から2年が経過したころには頻繁に嘔吐するように……。体重が減り大きかった体が小さく細くなって、確実に衰えが進んでいることが見て取れました。

 そうして並行して入退院を繰り返しながら1年。何回目かに退院したある日、自宅で時々意識を失うようになるということで、往診に伺った時、そのまま息を引き取られました。

 最期のギリギリまで、生きている証しのようにして、食へのこだわりを捨てず命を全うされた患者さんでした。そんな患者さんへ、フットケアをはじめとしたきめ細かいサポートは、在宅医療ならではの寄り添い方だと言えると考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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