「マンガ ぼけ日和」著者の矢部太郎さん「印象に残ったのは認知症が老化の一環であるということ」

矢部太郎氏(吉本興業提供)
矢部太郎氏(吉本興業提供)

マンガ ぼけ日和」(かんき出版)は、「大家さんと僕」で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した芸人、矢部太郎さんの初の単行本書き下ろし作品。認知症専門医である長谷川嘉哉医師の「ボケ日和」を漫画化した。認知症の患者と家族の日常が描かれており、認知症の人が見えている世界、こんな時、家族はどうすればいいのかが、すんなりと伝わってくる。年末年始の帰省で久しぶりに老親と会い、「もしかして……」と不安になったら、ぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。

 ──元々、原作の表紙絵と挿画を担当した。

「母が長い間、特養で介護の仕事をしていました。しかし僕の近くに認知症の方がいたわけではなく、全くと言っていいほど、認知症は知らない世界でした。依頼を受けた時、母に相談したら、賛成してくれた。もともと『グラフィック・メディスン』に関心があったこともあり、お引き受けしました」

 ──グラフィック・メディスンは2007年にイギリスのコミックアーティストで医師であるイアン・ウィリアムズが提唱した概念。10年から毎年国際会議が開かれ、日本でも18年に「日本グラフィック・メディスン協会」が設立されています。

「医療にまつわることは難しい内容が多く、文字情報だけではとっつきにくい部分があります。それを漫画でわかりやすく伝えるのがグラフィック・メディスンです。認知症という、関心がありながらも知られざる情報を、(原作者の)長谷川先生の本を通して伝えられればと思っています」 

 ──認知症についての考え方が変わりましたか。

「原作で印象的だったのは、『認知症が老化の一環である』ということ。誰もが老いていく中で、そして死に向かっていく中で、起こることであり、今の僕たちとつながっているのだと知りました」

「マンガ ぼけ日和」より
「マンガ ぼけ日和」より
漫画を入り口に認知症のことを知っていってもらえれば

 ──漫画にすることで、意識したのは。

「漫画の本質は省略なんだ、どれだけ省略できるかが漫画なんだ。そう考え、何度も何度も描いて、文字数を減らしていきました。医療系の漫画って、情報量が多くて、編集の方の意向もあって文字情報を落とせない場合もあるようですが、長谷川先生も編集者も全て僕に任せてくれたので、イメージしているものになったと考えています。一冊で全てを伝えなくてはならないとは思っておらず、この漫画を入り口として、なだらかに認知症のことを知っていってもらえれば……」

 ──原作もそうですが、認知症の進み方を「春夏秋冬」に例えて表現しており、「冬」の看取りの部分で終わっている。原作にある「ほどほどで十分です」というセリフで締めくくられています。

「認知症になると、すぐに何もわからなくなるという印象があると思うんです。しかし、長谷川先生の本を読んでいるとそうではないことがわかります。ゆっくりと症状が進行し、まるで春夏秋冬のように、変化していく。母もよく言っているのは、介護は大変なもので、誰かの手に頼った方がいい。家族だから介護をしなければならない、ではない。母と長谷川先生の話には共通している部分があり、それは、『状況が許すならプロに任せる。ほどほどで十分』ということ。それを生かしたいと思いました。高齢化社会の中で、みんなが長生きするから認知症になる。しかし、認知症のことをみんなわからないから不安になる。僕も、描いたことで終わりにしないで、今後も認知症のことを考えていかないといけないな、と思っています」

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