高齢者の正しいクスリとの付き合い方

認知症を根本的に治すクスリは今のところ存在しない

認知症を治すクスリは存在しない
認知症を治すクスリは存在しない

 2024年を迎え、昨年あったイヤなことはさっぱり忘れて新たな年に臨みたいと思っている方もいらっしゃると思いますが、忘れてはいけないことまで忘れてしまう病気があります。「認知症」です。今の超高齢社会では誰しもそのリスクと隣り合わせだと言っても過言ではありません。そのため、高齢になると「いつか自分も……」と不安に思うこともあるでしょう。今回は認知症と薬物療法についてお話しします。

 年をとるともの忘れが増えて、「これって認知症なのでは」と心配になった経験はありませんか? ただ、加齢によるもの忘れと認知症はまったく別のものです。加齢によるもの忘れは、体験したことの一部の記憶がなくなることで、多くは何かヒントがあると思い出すことができます。また、もの忘れでは判断力は低下しません。

 一方、認知症は、体験そのものの記憶がなくなってしまい、判断力も低下するケースが多い。たとえば、もの忘れでは「昨日の夕食のおかずが何だったか」思い出せないのに対して、認知症では「昨日夕食を食べたこと」そのものを思い出せなくなってしまうのです。

 認知症の原因はさまざまですが、脳の萎縮や脳血管の障害などが代表的なものになります。認知症で最も多いのはアルツハイマー型認知症と呼ばれるもので、次に多いのが脳血管性認知症です。他にもレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。それぞれ原因は異なり、症状も異なってきますが、共通しているのは「記憶がなくなる」という点です。

 認知症の治療には非薬物療法と薬物療法がありますが、いずれも根本的な治癒を目標としているわけではなく、「進行を遅らせる」あるいは「認知症に伴う付随症状を軽減することで患者本人や介護する家族の生活の質(QOL)を高める」ことを目標としています。つまり、今のところ認知症を根本的に治癒することができるクスリは存在しないということです。

 そのため、認知症の治療の基本は非薬物療法になります。非薬物療法の主なものとして認知機能訓練といったリハビリテーションや運動療法、音楽療法などがあります。そして、非薬物療法は患者だけではなく家族などの介護者も対象としているところが重要です。認知症の介護は大変なことも多いため、介護者に対しての心理教育やサポートなども行われます。

 一方、薬物療法についてはアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症において、その進行を遅らせることが期待できるようになりました。次回は認知症の薬物療法について紹介します。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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