老親・家族 在宅での看取り方

進行性大腸がんの50歳男性の「最後の願い」をかなえるために

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を開始された50歳の男性。進行性大腸がんで、肝臓、リンパ節、骨へ転移。がんの進行が速く、いつなにがあっても不思議ではない状況でした。

 最終的に在宅医療を選ばれた理由は、ただただ病院での入院生活では話し相手がおらず寂しいといった素朴で切実な理由。

 そしてなるべく早く退院し、1週間ほどパートナーと自宅で療養生活を送った後に、高齢ながらもご健在なご両親の待つ、生まれ故郷の東北に帰りたいという思いもお持ちでした。

 患者さんの最後の願いをかなえようと、同居するパートナーの方は、対応してくれる医療機関や訪問看護などを必死に探したといいます。入院先の病院や訪問看護の方々も一丸となって協力。ご両親も東北地方から上京し、マンスリーマンションを借りて診療に同席、看病をすることになりました。

「口から胃、胃から腸、腸からその先って感じで症状が分かれているんです。いろいろお薬を出してもらっていますけど、口から胃はロキソニン(鎮痛剤)、胃から腸はメトクロプラミド(胃腸薬)でよくなります。でも食事をとるのが怖くてあんまり食べれないですね」(本人)

「エンシュア(栄養剤)とか飲んだことありますか?」(私)

「飲んでます」(本人)

 処方される薬に対する理解があり、自分の言葉ではっきりと病状や不安をおっしゃる方で、その分つらさもひしひしと伝わります。ですがお互い忌憚なく対話でき、診療する私たちにとっても助かりました。

 1週間の訪問診療を終え、東北に帰るときが来ました。

「息苦しいとかはありますか?」(私)

「今少しマシなんですが、もっとキツくなると息苦しさも出てきます」(本人)

「日に日に腹水でお腹が大きくなって、背中も圧迫されちゃって。利尿剤出してもらえませんか?」(パートナー)

「出せるんですが、どのくらい効果があるかっていうのは難しいかもしれないです。利尿剤でお小水は出るけど、お腹の水の量はどんどんたまってしまうので変わらないかと思います」(私)

「口から飲めなくなったらどうしたらいいんでしょう?」(パートナー)

「貼るお薬もあります。東北への移動はどれくらいですか?」(私)

「新幹線で3時間くらいです」(パートナー)

「利尿剤使うと血圧が下がってしまう可能性があるので、移動が大変になってしまうかも」(私)

 小さな不安であろうと、それを解消するため患者さんやご家族と密に対話を重ねることは、在宅医療を進めるうえで重要です。そこで得られた診療情報はもれなく、移転先である現地の在宅医療の医療機関へ引き継がれることになります。

 その後しばらくして、無事に到着されたとの連絡があり、私たちもホッとしました。

 1週間という短い間でしたが、ご本人が望まれた故郷での暮らしをかなえるために必要な準備期間。そんな大切な時間に関われ、私たちにとっても貴重な学びとなりました。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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