科学が証明!ストレス解消法

「他者からの視線」はパフォーマンス向上の一因になる

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「視線耐性」という言葉があることをご存じでしょうか。ストレス耐性から派生した言葉で、「相手の視線に耐える力」を意味します。昨今、「視線耐性」が低下している人が、若い世代を中心に増えているといいます。

 さまざまな原因が考えられますが、スマホのアプリを使った顔写真の加工が珍しくなくなったことも一因でしょう。デジタル依存度(=デジタルメディア接触時間)が増すにつれ、デジタル世界やオンラインゲーム上の見てくれを意識するようになる人は少なくありません。

 容姿をコントロールするだけでなく、昨今は性別すら変えてしまう加工アプリも存在します。あくまで友人同士の冗談として面白がるなら問題ないでしょうが、意図的に外見を変えられることで、マッチングアプリなどでは誤解を招き、トラブルに発展するケースもあると指摘されています。

 加工を繰り返せば、おのずと本当の自分の姿との間にギャップが生まれていきます。ギャップを感じれば感じるほど、本当の自分の容姿に自信を持つことができなくなり、視線耐性は低下する──。デジタルの力によって化粧(加工)できてしまうがゆえの弊害とも考えられるでしょう。

 人間が矛盾する認知を同時に抱えた状態や、そのときに覚える不快感を表す社会心理学用語に「認知的不協和」があります。

 かつては、現実と理想に悩むのであれば、理想を引き下げることで認知的不協和を解消するしかありませんでした。しかし、今ではネットやアプリによって、理想を変えずに現実の自分を仮想世界で変えられるようになりました。現実と理想とは別に、現実と仮想現実の自分に悩むという、新たなギャップが生まれているとも言えます。

 実際、他者の視線と自尊心は関係性が深い。当連載でも、過去に「化粧をすると自尊心が向上する」という研究を紹介しましたが、自尊心の低下は社会的感情に悪影響を及ぼす可能性があると示唆されています。知らず知らずにアプリで加工を繰り返していると、無意識のうちにリアル社会における自尊心を低下させてしまうわけですから、加工はほどほどにとどめておくことが賢明でしょう。

 ほかにも、私たちが想像している以上に、他者の視線は私たちの行動に影響を与えます。

 1920年代から30年代にかけて、アメリカのウェスタン・エレクトリック社のホーソーン工場で行われた一連の実験で「ホーソーン実験」と呼ばれるものがあります。労働条件の変化が労働者の生産性にどのような影響を与えるのかを調査したところ、労働者が注目を受けることで生産性が向上することが示唆されました。他者から見られているということが、パフォーマンス向上の一因になるというのです。

 もちろん、「見られる」ことは「監視」的なニュアンスも含みますから、やりすぎはよくありません。一方で、誰かが見ていてくれるから、モチベーションが上がることも確かなのです。他者からの視線を、ポジティブなものとして受け止められれば、自分の力に変えることができるはずです。

◆本コラム待望の書籍化!
『不安』があなたを強くする 逆説のストレス対処法
堀田秀吾著(日刊現代・講談社 900円) 

堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

関連記事