第一人者が教える 認知症のすべて

「肥満+握力低下」で認知症のリスクが高くなる

肥満に握力低下を併発していると…
肥満に握力低下を併発していると…(C)日刊ゲンダイ

 年が明けて約2週間。年末年始に増えた体重をまだ戻せていないという人もいるのではないでしょうか?

 周知の通り、中年以降になると代謝が落ち、痩せにくくなります。1~2キロの体重増であっても、その都度解消しなければ、“チリも積もれば山となる”で、肥満へと徐々に近づいていくことになります。

 肥満と認知症の関連については、国内外でさまざまな研究が行われています。そんな中で、「肥満+握力」に着目して行われた研究を紹介しましょう。2022年に、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの染谷由希特任助教らが、欧州臨床栄養代謝学会誌「Clinical Nutrition」のオンライン版に公開したものになります。

 染谷助教らは、東京都文京区在住の65~84歳の1615人(男性684人、女性931人)を対象に、身長・体重測定、握力測定、認知機能検査を実施。BMI(体重キロ÷身長メートルの二乗)が25以上を肥満、握力が男性28キロ、女性18.5キロ未満をサルコペニア(※)と定義し、肥満でもサルコペニアでもない正常群、肥満群、サルコペニア群、肥満とサルコペニアの両方に該当するサルコペニア肥満群に分類しました。

 そして、MoCAやMMSEの認知機能検査の点数、軽度認知機能障害や認知症の有病率をそれぞれ比較しました。

 すると、正常→肥満→サルコペニア→サルコペニア肥満の順番で、認知機能検査の点数が低下し、軽度認知障害、認知症の有病率が増加するとの結果。つまり、肥満と握力低下(サルコペニア)を併発する人では、認知症のリスクが高い可能性が明らかになったのです。

 年齢、教育歴、基礎疾患を調整した結果では、サルコペニア肥満は正常より軽度認知機能障害のリスクが約2倍、認知症のリスクが約6倍と示されました。

【※サルコペニア 「サルコ(ギリシャ語で〈筋肉〉)」と「ペニア(喪失)」を合わせた造語で、筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のこと。転倒、骨折、寝たきりなどの原因になるといわれている。2016年10月、国際疾病分類に登録され、現在は疾患に位置付けられている】

■「体を動かして」と言っても聞いてくれない老親。そこで提案した方法は…

 体を動かすことは肥満対策だけでなく、サルコペニア対策にも有効。ひいては、認知症対策に役立ちます。

 サルコペニアのことを新聞記事で知って以来、70代後半の両親のことが心配になったと話すAさん(49歳)。昨年の正月、西日本の実家に帰省した際、両親の歩行量の少なさを目の当たりにし、より心配が増したそうです。

「実家がある場所は完全な車社会で、歩いて15分ほどのスーパーへ行くのにも車です。『近いんだし、歩いて行ったら』と言っても『そんなん、無理やで』の一点張りです」(Aさん)

 夏のお盆に帰省した時、Aさんが歩いてスーパーに行き、「確かに、荷物を抱えて歩いて帰るのは無理だ」と痛感。では散歩はどうか、と両親を誘うも、反応はイマイチ。実家は住宅地の中にあり、Aさん自身も「景色を楽しめるわけじゃなく、散歩して楽しいところじゃないな」と感じていたので、「外歩いて何がオモロイねん」との両親の言葉に何も返せなかったそうです。

 今年の正月の帰省では、Aさんはある計画を立てていました。

「両親には『動け、動け』と言いつつ、自分は体を動かすのが好きじゃなく、運動も何もしていなかった。カミさんに、『一緒に始めたらいいんじゃない』と言われ、それもそうだなと思ったんです」

 自分自身、“運動”となるから、ハードルが高くてやる気がしない。自宅で、普段着のままでやれる方法を……とまずはスクワットを提案。しかし両親とAさんの3人ともまったく盛り上がらず、継続できる気がしなかった。次にラジオ体操をやってみたら、「スクワットよりマシかな」。

 そこで、私がやっている「オンライン健脳カフェ」の「健脳体操ラクティブ」と「健脳運動シナプソロジー」の2つにチャレンジ。ラクティブはマシンなどは使用せず、自分の体重と持っている力を利用した体操、そしてシナプソロジーは「2つのことを同時に行う」「左右で違う動きをする」など認知機能や運動機能の向上を目指した運動プログラムです。

 すると、両親は特にシナプソロジーが気に入った様子。「うまくできた」と笑い、「失敗した! 難しいな」と笑い、「これはええな」と意見が一致した。Aさんが東京の自宅に戻ってからも、両親と連絡を取り合い、時間を合わせ、3人一緒にシナプソロジーをやっているそうです。 

「3カ月続けることを当初の目標に」とAさんは両親と決めているそうで、「体を動かすことに加え、ラインや電話でやりとりする回数も増えました」とのことでした。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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