介護の不安は解消できる

発達障害が認知症と誤診されやすいのはなぜか…その特徴とは?

認知症専門医の河野和彦氏(本人提供)
認知症専門医の河野和彦氏(本人提供)

 高齢者の発達障害が、認知症と誤診されやすいのはご存じでしょうか。2022年9月、熊本大学の研究で認知症専門外来を認知症疑いで受診した患者446人のうち、7人は発達障害であったと報告されました。実際、当院でも物忘れの症状で認知症を疑い受診した患者さんのうち、2割は発達障害と診断されています。

 発達障害とは、遺伝により生まれつき脳に特性があり、健常者と物事の捉え方や行動のパターンに違いがみられ、日常生活に支障を来す状態を指します。主に注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)に分類され、両者を併発しているケースも少なくありません。日本では国民の8%が発達障害で、そのうち4%は成人してからも特性が残るといわれています。

 ADHDは不注意や落ち着きのなさのほか、出来事を一時的に記憶するのが難しく忘れっぽいという特徴があります。物忘れの症状で認知症を疑い当院を受診した78歳と76歳の姉妹は、バレーボールを長年続けていたこともあり、動きが活発で若々しい印象を受けました。ここまでどうやって来たのか尋ねると、家族に病院までの送迎を頼むわけでもなく自ら電車を乗り継いで来院したといいます。認知症の検査や脳のCT画像からも異常は認められない。活動性の高さからも物忘れの症状はADHDによるもので、2人とも両親から発達障害が遺伝したと考え診断しました。

 一方で、患者さんのお子さんの状況から、親の発達障害が発見される場合もあります。認知症の疑いで要介護認定を受けていた80代後半の母親は「福祉のお世話になりたくない」とかたくなに施設への通所を拒否し、同居する無職の息子さんが自宅で介護をしていました。訪問診療の際、息子さんになぜ働かないのかと理由を聞くと、上司から「融通が利かず他人のミスを問い詰める」と指摘されたためだと言います。これは「こだわり」や「正義感」といったASDの特徴で、母親がかたくなに介護抵抗を示しているのもASDの特徴の一つの正義感の強さから来ていると考えられ、診断することができました。

 先述の熊本大学の研究では、認知症と誤診された発達障害の人のうち約半数は、発達障害の治療を行ったことで症状が改善したといいます。発達障害の方が誤って認知症の治療薬を服用したところで症状は改善しない上に、薬による副作用のリスクもある。

 認知症と発達障害はそれぞれに専門医がいて、同時に診察できる医師が限られているのが現状です。誤診を防ぐためにも物忘れを引き起こす病気は認知症だけではないことを知っておく必要があるのです。

▽河野和彦(こうの・かずひこ)1982年近畿大学医学部卒業。名古屋第二赤十字病院、名古屋大学大学院、JA愛知厚生連海南病院老年科部長、共和会共和病院老年科部長を経て、2009年現在の名古屋フォレストクリニックを開院。

関連記事