教えて放射線治療 ドクター黒﨑に聞く

膵臓がんはかつての予測よりもはるかに多く発症している

写真はイメージ(C)iStock
写真はイメージ(C)iStock

 全国統計によると、膵臓がんは現在死因第4位(女性では3位)、年間4万人弱が亡くなっています。一方、発症者は4.5万人弱なのでいかに、難治性なのかがわかります。

 ちなみに、公益財団法人がん研究振興財団は定期的に「がんの統計」を出していますが、2005年の予測では2025年の膵臓がんの患者数は2万人程度でした。つまり、20年前の予測よりはるかに多くの膵臓がん患者が発生し、亡くなっています。2014年時点ですでに3万を超えていました。

 こうした急激な膵臓がんの罹患者数、死亡者数の増加を受けて、膵臓がんに対する放射線治療のウェートも大きくなっています。2022年の1年間に私が勤務する江戸川病院放射線科では延べ183人が入院されましたが、うち29人が膵臓がんの患者さんでした。

 膵臓がんになりやすい人として、糖尿病、肥満、喫煙習慣、大量飲酒が常態化している人が挙げられています。また、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍といった膵臓にもともと病気がある人もなりやすいとされ、こうした方は定期的な膵臓検査が必要だとされています。

 一方、治療においては、残念ながら皆さんが期待するほどの抗がん剤の進歩はありません。フォルフィリノックス療法(5-FU・イリノテカン・オキサリプラチンの3種類の抗がん剤にレボホリナートをプラスする)を加えた多剤併用療法がもっともポピュラーな治療方法ですが、局所進行している場合では生存期間2年弱、遠隔転移を伴う場合は1年程度となっています。

 近年、BRCA遺伝子という遺伝子が壊れている患者さんには、オラパリブという新薬が使えるようになりました。しかし、この遺伝子が壊れている人は膵臓がん全体の5%程度に過ぎず、オラパリブが適応となる膵臓がんの患者さんは多くはありません。しかも、投与しても、その効果は悪くなるまでの期間が7カ月ちょっとぐらい延びる程度であり、ゲームチェンジャーとなるような抗がん剤ではないようです。

黒﨑弘正

黒﨑弘正

江戸川病院放射線科部長。1995年、群馬大学医学部卒。医学博士。日本専門医機構認定放射線専門医、日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医。JCHO東京新宿メディカルセンターなどの勤務を経て2021年9月から現職。

関連記事