50代の女性はこの6年ほど、北日本のある漁村をしばしば訪れているそうです。
新幹線の停車駅から電車とバスを乗り継いで約4時間、自宅のある東京からだと7時間かかり、行きやすい場所とは到底言えません。
車を運転できないので、滞在中は宿で仕事や読書をするか、近隣を散歩するか。宿に温泉があるわけでもない。
それなのに年に数回、コロナ前は2カ月に1度くらいの割合で足を運んだこともあったのはなぜか? 女性いわく「人」。
漁村に出かける日程が決まったら、女性はすぐに、最初に旅行した時に出会った知人にLINEを送ります。漁村滞在中は毎夜、知人とその仲間の漁師さんたちの集まりに加えてもらう。
漁村の夜は真っ暗で、とても静か。飲食店は基本的に昼しか営業していません。
女性の知人や漁師さんたちは独自に集まる場所をつくり、毎晩のように酒を飲み交わしているそうで、その雰囲気が素晴らしいのだそうです(でも、毎晩の深酒は要注意です)。
40~70代の幅広い年齢層が爆笑し、仕事や人生の真面目な話から、軟らかい話まで盛り上がる。誰かが誰かに一方的に説教や批判をしたり、過去の栄光話を語り続けるといった、女性が日頃飲み屋でしばしば目にする光景は見たことがない。
前回女性が行った時、帰り際までテーマになっていたのが、岩手県出身の演歌歌手、福田こうへいさんの「母ちゃんの浜唄」の歌詞についてだったそうで、「『小イワシはいらんかね 七日経ったら鯛になるよ』とあるが、魔法を使ってもイワシは鯛にならない。どういう意味なんだ」ということについて、いろんな意見が飛び出した。漁師さんの朝は早いこともあり、いつもは夜8時には帰途につくのですが、その晩は9時まで宴が続いたそうです。
50代女性が漁村のエピソードを同い年の友人に語ったところ、こんな話も。
その友人(関西出身)が交流している、関西在住の70代後半から80代前半の女性グループは、全員が親や配偶者の介護経験があり、介護の情報交換などを通して親しくなった仲間。付き合いは20年近くにも及び、ケンカも多数経験し、それゆえに結びつきも強いそうです。
ある日のお茶会の会話。
「あんた、いっつも朝、散歩してるやろ」
「可愛がってるこの子(ぬいぐるみ)も、散歩一緒やねん」
「歩きながら(ぬいぐるみに)話しかけてるの、はたから見たらめっちゃ怖いで」
「近所の人、絶対思ってるわ。あの人、ボケてはるんちゃうかーって」
「そしたら、どないしよ。最近寒くて朝の散歩お休みしてたから……」
「死んだと思われてるで!」
ここで大爆笑。
関東の人間からするとちょっとハラハラしてしまう会話ですが、この女性グループ、現在は介護を終え、メンバーのほとんどが1人暮らしということもあり、頻繁に集まり、誰かが発言し、誰かがそれにツッコミ、みんなで爆笑……という会話をしているとか。
「この会に参加すると、みんなでしゃべって、笑って日々を過ごしていたら、認知症にならないんじゃないかな、といつも思う」(友人)
世界的に権威ある医学雑誌ランセットに掲載された認知症のリスク因子のひとつが、「社会的孤立」です。若いうちは孤立も、その人が望むなら悪くないでしょう。しかし高齢になると、人との交流が認知症予防の上で非常に重要です。そこに「笑い」が加われば、なおいい。
私のクリニックで開いている「健脳カフェ」も、体操や麻雀などの認知症予防プログラムと同じくらい、カフェへの参加者同士の交流を大切にしています。
単発的に何かの会に参加するのもよし。でも、しっかりした関係を築きたいなら、言うまでもなく一朝一夕では難しい。
年を重ねるにつれ、新たな行動を起こすのがおっくうになりがちです。元気が有り余っている今から、何歳になってもおしゃべりし爆笑できる人間関係づくりを始めてみませんか。