老親・家族 在宅での看取り方

義父の干渉で、義母が検査や治療を積極的に受けたがらない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「頭がすごくぐるぐるしてて、吐きそうで吐けない感じの気持ち悪さがあるんです」

 電話の主は70代の女性。旦那さんが指定難病の筋ジストロフィーを患っており、2人暮らしです。症状から念のため精密検査が必要と判断し、病院を紹介。奥さまに検査入院していただくこととなりました。

 女性はほどなく退院して自宅に戻られたのですが、今度は息子さんのお嫁さんから電話がありました。

「義母が治療を受けたがらないんです。先生から治療の必要性を説明してくれませんか」

 聞くと、何年か前も原因不明のめまいに悩み、大学病院で精密検査を受けたのだとか。しかし脳には異常がなく、耳鼻咽喉科で検査を受けてはどうかと提案されたのだそう。

「今回も、病院の先生から同じことを言われました。でも、義母はあちこち行くのに疲れ切っていて、追加の検査には消極的なんです。追加検査はいつしたらよいでしょうか? それからうちは義父がネックで受診できないこともあって……」

 その口調からは義父への不満、そして強い焦燥感と責任感があふれ出ています。

「入院について、やっぱり義父が義母にこまごま言っていたみたいで。なんでそれくらいで受診したんだとか。耳鼻科の件も、受診を勧められたときに、そんなに迷惑かかることして……というような小言を言ってたみたいです。旦那から聞いたんですが、義母も人に迷惑をかけたくないと言いだしてしまって。義母がもしこのまま症状がひどくなっても、誰にも言えなくなるのが心配で」

 身近な人に病魔が迫っている時でも、家族ですら考えを共有し方向性を一致させることは難しい場合が少なくありません。

「今回の緊急時、義父は何もできなかったみたいです。何度も義父に義母のこと見ていてと言っているんですけど。自分も薬の副作用で眠くなるからってちゃんと聞いてくれなくて。普段は副作用と認知症気味でボケボケなのに、義母に対する嫌みは大きな声ではっきり言うんです。一応夫婦だから義父がキーパーソンとして登録されていると思いますが、本当の意味でキーパーソンではないんですよね。なので今後の大事な決定とかは義父に委ねたらダメなんです……」

 ここでいうキーパーソンとは、患者さんの介護や治療の方針をサポートし、何かあったときに決断する人物です。しかしもう一つの意味があり、患者のストレスのもととなった人物のことです。

 ご家族は、義父に前者の意味でのキーパーソンは務まらないと、不安を述べました。

「本当なら私か旦那が今回の病院での検査に同席した方がよかったんですが、義父が気にして怒るので同席もできなくて、本当に情けないのですが、今回の検査について私も旦那も何も分からなかったんです」

 患者さん本人の意向も大切にしながら、家族の要望も聞き、それぞれの不安を解消できるようにするにはどうすればよいのか? そして介護の問題や家族の在り方と、在宅医療におけるコミュニケーションの仕方を改めて考えさせられたのでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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