上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

相次ぐ医療事故…命を守るために患者が押さえておくべきポイント

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 昨年、カテーテル治療を受けた患者11人が死亡していたことが判明した神戸徳洲会病院で、今度は投薬ミスの可能性がある“死亡事故”が発覚しました。

 報道によると今年1月19日、90代男性が心肺停止の状態で搬送され、治療により一時は心拍が再開しました。その後、血圧を上げる薬剤が投与されていたのですが、薬剤の残量が少なくなって警告音が鳴ったため、家族がスタッフに知らせたそうです。しかし、薬剤は追加されず、男性はそのまま数時間後に死亡したといいます。病院側は「死期を早めた可能性がある」と家族に謝罪し、現在、病院内の事故調査委員会で原因を調べているとのことです。

 あってはならない医療事故が相次いで問題になったばかりなのに、またしても死亡事故を起こしたことを見ると、患者さんを守るための病院の医療安全管理体制に問題があると言わざるを得ません。前回のカテーテル治療では病院の稼働増につながる過剰診療で、本来であればやらなくてもいいような保険点数が高くなる治療を経験の浅い医師に任せたり、トラブルを生じてもその管理や解決する経験値が備わっていない医療安全不備といえます。

「患者さんの心身を守る」という医療における一丁目一番地、大原則である医療安全に対する取り組みは、一定のリスクを伴う現代医療においては表裏一体です。大学病院のような特定機能病院だけでなく、すべての医療機関にその教育や研修が義務づけられていて、全医療従事者が共通の課題として向き合う必要があり、医療事故を防ぐ重要なシステムとなっているのです。

 さらに、患者さんを守るための医療安全を第一に考えると、重大な医療事故を起こした病院では現状で実施されている病院内部での取り組み方が、一般的な倫理も含めた現在の医療の情勢に合致しているかどうかを第三者または病院の顧問弁護士のような法律の専門家に評価してもらうことも必要です。医療安全に対する取り組みは日々刻々と変わっていて、常に微妙な軌道修正が必要になるからです。

 たとえば蘇生法を考えると、かつてはマウス・トゥー・マウスで呼吸を確保してから心臓マッサージを行うという方法が一般的でしたが、近年はとにかく心臓マッサージを優先するように変わっています。

 そうした“際の際”の取り組み方でさえ変化していくわけですから、病院全体の医療安全となればなおさらです。そうした新しい取り組み方を学ばない病院、医療管理者、現場の医師が組み合わさるとどのようなトラブルが発生するのか。その最たる例が、神戸徳洲会病院で起こった一連の医療事故といえるでしょう。

■第三者機関の評価が重要

 今回だけでなく、これまでさまざまな病院で発覚した死亡事故についてお話ししてきました。さらに、表面化していないだけで同じような事例がじつは少なからず発生しています。本来であれば死ななくて済んだはずの患者さんが、医療行為のせいで亡くなったり、一生背負う身体合併症を被ってしまう……そんな考えられないような医療事故が起こっているのが現実なのです。

 だからこそ、自分の命を守るために患者さんは医療安全が徹底されている病院を選択しなければなりません。まず確認したいのが第三者機関から「病院機能評価」の認証を受けているかどうかです。たとえば、国際的な病院機能評価機構「JCI」では、世界基準で患者さんの安全性が確保されているか、適正な高度医療が提供されているかを詳細な項目で厳格に評価しています。また、全日本病院協会でも病院機能評価を実施していて、これらの認証を受けていれば、病院のどこかに標榜してあるはずですし、一定レベル以上の医療安全対策が病院全体に浸透していると判断できます。

 また、病院内に「安全対策室」のような部署が設置されているかどうかを入院前に確認しておくことも大切です。医療安全対策にしっかり取り組んでいる中規模以上の病院ならば、必ず安全対策のための部門があるはずです。病院の受付で、そういったものがあるかどうかを尋ねるのはまったく不自然なことではありません。 

 ほかにも、たとえばカテーテル治療であれば、日本心血管インターベンション治療学会が心血管カテーテル治療専門医技能評価を実施していたり、近年広まっているロボット手術なら、日本ロボット外科学会が専門医認定制度を設けています。そうした実技評価を受けている医師が治療してくれるかどうかを確認するのも、ひとつの判断材料になります。

 自分が治療を受けるとなったとき、治療実績が良好だったり、症例数が多い病院を選択するのはたしかに大切です。しかし、そこがポイントになるというのは病院側もわかっていることですし、病院のホームページにはその施設にとって都合の良いデータしか書かれていない場合がほとんどです。患者さんが、その病院のマイナス点を含めた“本当の評価”を見極めるのは簡単ではありませんが、治療を受ける前に実際に病院に行って、自分で情報を集めると見えてくる場合があります。

 たとえば、その病院に長く勤めている職員、それも医療従事者以外にあたる食堂のベテランスタッフや清掃関係の従事者に「こういう病気で診察を受けに来たんだけど、評判はどうですか?」と聞いてみたり、実際にその病院で治療を受けた患者さんに話を聞いてみるのもいいでしょう。かなり正確な情報を教えてくれることでしょう。

 自ら医療機関に足を運んで治療を受ける場合は、自分の中に「選択する基準」をきちんと持っておく。医療機関の選択ミスはその患者さん自身にも責任があることをあらためて強調したいと思います。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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